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鳥栖の2年半でやったこと、奇抜なミーティングの理由、練習時間が短かった効果。元鳥栖監督・川井健太の現代フットボール論(後編)

2024.11.19

元サガン鳥栖監督の川井健太氏に現代フットボールをテーマに様々な角度から語ってもらうインタビュー。フットボリスタ編集長の浅野賀一とサッカーライターの清水英斗がサッカー最前線を探るべく根掘り葉掘り聞いた。後編では、鳥栖で過ごした2年半、コーチとの関係性、ミーティングの活かし方などを中心に話してもらった。

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今年は少し時間軸が足りなかった

――今季は途中まで率いた鳥栖のJ2降格が決まってしまいましたが、振り返って何か思うことはありますか?

川井健太(以下、川井)「残念に思っています。様々な要素が不足していたのは事実です。J1で戦い続けるにはピッチ上の問題もそうですし、予算規模の問題にも向き合っていく必要があります。ただ、鳥栖には素晴らしいサポーターが存在していますので、クラブを支え、近い将来J1に上がってくると思います」

浅野賀一編集長(以下、浅野)「少し前に湘南の大多和(亮介)副社長にインタビューさせていただいて、一昔前のJリーグはどこが勝つかわからないと言われてきたけど、近年のデータでは予算規模と順位に強い相関が見られるようになってきたと言っていました。公開されている売上高データを見ても、鳥栖はJ1では一番下のグループですよね」

川井「結果の定義は各クラブにとって曖昧で、予算規模も含めるとJ1残留というのが、おそらく鳥栖では妥当な目標になってきます。今年は降格してしまったけれども、2年半やらせてもらってポジティブな部分もあったと思います。2年目も1年目と同じやり方ではなく、変化させて、3年目も変化させた。選手がどんどん入れ替わるから、そうせざるを得ない部分はありましたが、その意味では幅も広がりましたし、考え方もすごく柔軟になり、僕自身は全力を尽くしたと感じています。

2022年1月から2024年8月まで鳥栖の指揮を執った川井監督

 ただ、この半年でいくと、やはりバランスは崩れていました。シーズン前は全試合に勝つことから逆算し、そのために獲得できる選手を獲りに行く。その先は、良いことはあまり考える必要がないんですよ。良いなら、そのままやってしまえばいいだけなので。でも、うまくいかなくなった時のことは、常に考えておかなければいけない。そういう時、なぜうまくいかないのか原因がわからない。これが一番厄介な状態です。だから、シーズン前からあらゆる想定はしていました。今年で言えば、守備がちょっと難しくなるかもとは考えていました。なぜかと言うと、キャンプ前から開幕までにケガ人が増えすぎて、なかなか引き出しを与えられなかった。だからその後に大事なのは、火消し対応をしなければいけないというところで、少し時間軸が足りなかったのは事実です。ただ、これも僕が1シーズンやっていたら言えるけど、この半年を振り返るのは難しいなと思います。

 自分の仮説というものを作り、選手たちに表現してもらうことは、この2年半でできたと思います。もちろんロジックだけでなく、人間としての本能であったり、情熱も絶対に大切というのはあります。ロジックとパッション。このバランスで、両方を持っていないとダメというのは重々わかっていましたし、使い分けとして足りないところがあったかもしれないけど、そこにもチャレンジを続けていました」

浅野「footballistaでは鳥栖の野田(直司)フィジカルコーチの連載もやらせていただきました。GPSによるトレーニング負荷の管理をすごく理論的にされていて驚きました。野田コーチは監督にフィジカル面の理解があるのが大きいとおっしゃっていましたが、川井さんはフィジカル化するサッカーの中でGPSなどのテクノロジーについてどういうスタンスを取っているのでしょう?」

川井「フットボールはアスリートがする傾向が強くなった以上、そういう数値はトレーニングから大切になります。僕の頭の中ではGKを除いて、1、2、3という理論があって、10km走る、スプリントは最低20回、その時速が30kmで、1、2、3と。これが基本的にポジションに関係なくできる身体になれば、選手のフィジカルとしてはOK。あとは各ポジションに応じて、センターバックはそんなに走らないとか、スプリントもポジションによって変わりますが、そういうデータを見るのは大切にしてきました。

 あとは今の時代、選手たちもゲーム世代です。僕が本当に言葉だけで理解させて、全員が納得して、試合に出てパフォーマンスを発揮させる。それが一番良いけど、何度も言うように、選手は一人ひとり違うので、それで効く人もいれば、しっかり視覚から入って数字とにらめっこして、自分は足りないんだと納得する選手もいる。だから、数字というものは根拠として、非常に重要になったと僕は思っています」

川井監督時代の鳥栖のトレーニングの様子

負けるとコーチたちが本気で謝ってくる

浅野川井さん時代の鳥栖はコーチ陣に任せている領域が大きいと伺いましたが、あらためてどのようなアプローチだったのでしょうか?」……

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Profile

清水 英斗

サッカーライター。1979年生まれ、岐阜県下呂市出身。プレイヤー目線でサッカーを分析する独自の観点が魅力。著書に『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』『日本サッカーを強くする観戦力 決定力は誤解されている』『サッカー守備DF&GK練習メニュー 100』など。

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