2024-25シーズン序盤戦もプレミアリーグで4位、CLリーグフェーズで6位と、昨季の躍進が決して偶然ではなかったことを証明しているアストンビラ。古豪を復活へと牽引する1人こそ、公式戦11試合で先発は1試合のみながらチームトップの6得点を叩き出しているジョン・デュランだ。爆発中のコロンビア代表FWが“問題児”から“切り札”へと変われた理由とは?
ホーランドを上回る“最高のスーパーサブ”
2024年10月2日はアストンビラFCに携わる人間にとって、一生忘れることがないであろう特別な1日となった。
1874年に設立されたアストンビラは、2024年でクラブ創設150周年を迎え、このメモリアルな年に1982-83シーズン以来となるCL(当時はチャンピオンズカップ)へと返り咲いている。
CLでのホーム初戦で迎え撃ったのは、2017年9月を最後に7年間グループステージ(今季からリーグフェーズ)で無敗のバイエルン・ミュンヘン。ドイツが誇る名門は1981-82シーズンにアストンビラがチャンピオンズカップを制した際の決勝の対戦相手でもあり、41年ぶりに本拠ビラパークで欧州最高峰の舞台を戦うことから熱狂的なファンで知られるウィリアム皇太子や42年前の優勝メンバーたちも観戦に訪れていた。
この歴史的な大一番で主役となったのが、在籍3年目を迎えている20歳のコロンビア代表FWジョン・デュランである。
70分にエースのオリー・ワトキンスに代わってピッチに入ったレフティは、その9分後に決定的な仕事を遂行する。CBのパウ・トーレスからのフィードを左足ダイレクトで合わせると、シュートはペナルティエリアいっぱいまで飛び出していた元ドイツ代表GKマヌエル・ノイアーの頭上を越えてゴールに吸い込まれる。この1点を守護神エミリアーノ・マルティネスを中心とする守備陣が体を張って守り切り、42年前のチャンピオンズカップ決勝と同じく、1-0でバイエルンを下した。
今季デュランが試合を決定づけたのはこのビッグゲームが最初ではない。プレミアリーグでは第8節終了時点で一度も先発がなく、すべて60分以降の出場にもかかわらず、すでに4ゴールも決めているのだ。それも得点を決めれば全勝と、チームの成績に直結する結果を残している。
ウェストハム戦との開幕戦で79分に決勝点を沈めると、第3節レスター戦でも63分に勝ち越し弾を挙げる。続くエバートン戦では、2-2で迎えた76分に9月のプレミアリーグ最優秀ゴールにも輝いた強烈なミドルシュートを叩き込んで2点ビハインドをひっくり返す大逆転勝利に貢献。その1週間後に行われたウォルバーハンプトン戦でも62分に彼がピッチに登場してから73分、88分と立て続けにゴールが生まれ、90+4分には試合を3-1と決定づけるダメ押し弾を記録した。
得点ペースはプレミアリーグでは50分に1点、公式戦では57分に1点と、効率で言えばマンチェスター・シティのアーリング・ホーランドをも上回る(ホーランドはプレミアリーグで72分に1ゴール、公式戦では87分に1ゴール)。この点取り屋をアストンビラ率いるウナイ・エメリ監督は、残り30分でチームを勢いづかせる“ジョーカー”として起用しており、デュランはその抜擢に応えている。10月7日には新たに2030年夏までの長期契約を結んだ。
今でこそチームが信頼を寄せる“最高のスーパーサブ”となったが、プレシーズンの時点でデュランが再びえんじと水色のユニフォームを着ている姿を想像している人は少なかっただろう。というのも、彼は絶対的な出場機会を求めて強く移籍を希望していたのだ。
「この世のものとは思えない左足」の持ち主だが…
ハッキリ言ってデュランはかなりの“問題児”である。ワトキンスの存在もあってプレータイムが限定的だった彼は今冬の移籍市場から退団を模索し、その頃から態度が問題視され始めた。
SNSではそれまで投稿していたアストンビラ関連の投稿をすべて削除し、クラブ公式アカウントへのフォローも解除(現在は復旧)。練習態度も評判が良くなく、サポーターの反感を買う極めつけとなったのが、今夏のInstagramのライブ配信での行動だ。移籍先として噂されたウェストハムの交差するハンマーのエンブレムを彷彿とさせるポージングを取り、この様子は瞬く間に拡散された。
こうした問題行動はアストンビラの外でも見られている。2022年冬から2023年冬まで在籍した前所属のシカゴ・ファイアー時代にもInstagramのQ&Aで「チャンスがあればシカゴ・ファイアーを去りたい」という所属先へのリスペクトに欠けた発言をしており、コロンビア代表でも直近の試合で規律違反の処分を受けていた。
ただ、その才能には疑いの余地がない。……
Profile
安 洋一郎
1998年生まれ、東京都出身。高校2年生の頃から『MILKサッカーアカデミー』の佐藤祐一が運営する『株式会社Lifepicture』で、サッカーのデータ分析や記事制作に従事。大学卒業と同時に独立してフリーランスのライターとして活動する。中学生の頃よりアストン・ヴィラを応援しており、クラブ公式サポーターズクラブ『AVFC Japan』を複数名で運営。プレミアリーグからEFLまでイングランドのフットボールを幅広く追っている。