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サウジアラビアを自滅に追い込む作戦勝ちの裏で…森保一監督が日本に課す試練を采配から読む【W杯アジア最終予選レビュー】

2024.10.12

過去3戦全敗を喫していた敵地でのサウジアラビア戦を0-2で制し、北米W杯アジア最終予選での全勝&無失点をキープした日本。難敵を自滅に追い込んだ作戦と森保一監督が課している試練を、『森保JAPAN戦術レポート 大国撃破へのシナリオとベスト8の壁に挑んだ記録』の著者、らいかーると氏が分析する。

 最終予選は油断が禁物と言われてきたが、結果を見れば中国戦(7-0)とバーレーン戦(0-5)と圧倒的な成績でグループCの首位に立つ日本。10月シリーズの相手はアウェイのサウジアラビアとホームでオーストラリアだ。北米W杯本大会に出場してもおかしくない同じアジアの強豪に対して、超攻撃的な選手起用を軸とする[3-4-2-1]が通用するかどうかが注目を集めている。

 カタールW杯では突然の3バックと攻撃的なプレッシングで世界中にサプライズを起こした森保一監督だったが、アジア予選や親善試合ではまるで試練を与えるかのように同じ配置にこだわる習慣がある。本大会に勝ち抜くためには2チームが必要で、そのためにラージグループの形成を狙うターンオーバーが繰り返されてきたが、最終予選は一味違うという考えなのだろう。

サウジアラビア戦の先発メンバー

サウジアラビアの奇策

 ロベルト・マンチーニ監督の下、アジア最終予選2試合で3バックを採用してきたサウジアラビアは、日本戦で[4-3-3]の奇策に出た。その心は日本の[3-2]ビルドアップに対して、3トップと2インサイドハーフをぶつける噛み合わせを優先したのだろう。特に中央CBの谷口彰悟のみを標的とするCFフェラス・アルブライカンのプレッシングは、執拗な嫌がらせとして機能していた。ちなみに3バックに対して、特定の選手にマンマークをつけることで、ボール循環のルートを誘導する策そのものは珍しくない。

 ビルドアップにも特徴が見られた。日本からすればCFの上田綺世、左シャドーの鎌田大地、右シャドーの南野拓実をサウジアラビアの3バックにぶつける想定だったのだろう。相手陣地からもプレッシングを行うはずだったのだろうが、攻撃的な立ち位置を取る右SBのサウード・アブドゥルハミドに対して、左SBのハッサン・カデュシュは低くとどまるという3バックと4バックを行き来する形にどうしてもハマりが悪くなる。アブドゥルハミドまで左ウイングバックの三笘薫が出てくるけど、逆サイドの堂安律のマッチアップは左ウイングのサレム・アルドサリになってしまったのは、この仕掛けが原因ではないだろうか。

 そのズレを埋めるために左ボランチの守田英正がアンカーのアブドゥレラー・アルマルキを捕まえにいった7分は、サウジアラビアのインサイドハーフの片方が完全にフリーになってしまっていた。プレッシングの再設定に試行錯誤する日本。前から奪いに行けばインサイドハーフが空き、さもなければアルマルキが空いてしまうという悪循環を解決する必要があった。

 しかしボール保持での結論は早々に出ることとなった。初手はロングキックを選択したGK鈴木彩艶だったが、次はボールを繋ぐことを選択する。サウジアラビアのプレッシングのルールを観察した日本はまず、9分前後に右ボランチの遠藤航や守田が最終ラインに入り谷口を解放。目の前に2人の選手が現れたことでアルブライカンは標的を絞れないようだった。

 この中盤の移動に連動して南野、特に鎌田は相手のインサイドハーフの背中に現れていった結果、遠藤や守田にまでプレッシングに行きたいサウジアラビアの2列目は背後が気になって前に出られない仕組みが生まれていく。マークの基準点を強制変更させることで、ビルドアップの安定を手に入れる日本の策は見事だった。

 10分が経過するとサウジアラビアは同数のハイプレスを止め、ハーフウェイラインをプレッシングの開始点とする形に移行。落ち着いてボールを保持できるようになった日本は、右CBの板倉滉と左CB町田 浩樹を起点として大外と内側にボールを動かしながらサウジアラビアのゴールへと迫っていった。

 そして試合が動いたのは13分。守田にボールを運ぶように指示されながらも無理と判断した町田から始まった攻撃も、谷口へと強烈に寄せてくるアルブライカンの姿勢に後方が連動できないことをきっかけとしている。守田が南野に絶妙なパスを送り、3バックにしてからの恒例となっているウイングバックからウイングバックへのクロスで折り返すと、最後は鎌田が押し込んで日本が先制する。いわゆる相手の守備ブロックの死角を急襲する大外アタックは、気がつけば得意技となっていた。

日本のプレッシングの結論は…

 しかしプレッシングにおける結論はまだ出せていない日本。南野と堂安の役回りがはっきりしないまま、カデュシュにフリーでボールを運ばれた場面はプレッシングの狙いがまだまだ定まっていないことを表している。リードを得たこともあって16分には[5-4-1]のようになったが、困ったら撤退して様子を見ることができることは日本の良さかもしれない。実際にその変更直後にカウンターから上田にシュートチャンスが訪れている。

 それでも同じ時間帯にサウジアラビアのゴールキックから始まったシーンには、日本の苦悩が詰まっていた。……

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Profile

らいかーると

昭和生まれ平成育ちの浦和出身。サッカー戦術分析ブログ『サッカーの面白い戦術分析を心がけます』の主宰で、そのユニークな語り口から指導者にもかかわらず『footballista』や『フットボール批評』など様々な媒体で記事を寄稿するようになった人気ブロガー。書くことは非常に勉強になるので、「他の監督やコーチも参加してくれないかな」と心のどこかで願っている。好きなバンドは、マンチェスター出身のNew Order。 著書に『アナリシス・アイ サッカーの面白い戦術分析の方法、教えます』(小学館)。

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