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日本一の“近さ”から来る臨場感。背中が振動し、鼓膜が揺れた。ピーススタジアムこけら落としドキュメント

2024.10.10

10月6日、こけら落としを迎えた「PEACE STADIUM Connected by SoftBank」(ピーススタジアム)。地方都市に出現した異世界に約2万人が集結し、その世界観に酔いしれた。待ちに待った新スタジアムでの初陣で何を感じ、何を見たのか。V・ファーレン長崎を取材するライター藤原裕久がレポートする。

下平監督はピースタ初陣勝利に「ホッとした」

 「異世界転生もの」と呼ばれる物語のジャンルがある。

 一般的には、現実世界で暮らしていた主人公が、何らかの事情で異世界に転生し、新たな人生を歩む物語を指す。

 ドラマの根幹は、未知の価値観や体験との遭遇、そして邂逅だ。今まで存在しなかったものが出現したとき何が起きるか。そこに読者は魅了される。

 人口流出にあえぐ地方都市に、スポーツとビジネスの両面で超一級の施設が誕生したらどうなるか。

 2万人収容のサッカー専用スタジアム、最高の環境を提供するオフィス棟と商業施設、様々な用途に利用できるアリーナ。10~15年ほど前、Jリーグは理想のスタジアムとして以下の諸条件を掲げた。

 「すべての観客席に屋根」、「複数のビジネスラウンジ、もしくはスカイボックス」、「大容量通信設備(高速Wifi)」、「中心地20分以内のアクセス」、「徒歩圏内に駅・バス停・大型駐車場」、「交流人口の多い施設のそば」。

 そのすべてを満たすスタジアムがついに誕生した。

Photo: Hirohisa Fujihara

 10月6日、こけら落としを迎えた「PEACE STADIUM Connected by SoftBank」(ピーススタジアム)。地方都市に生まれた異世界。それがピースタの本質だ。

 「今日のスタジアム開業を素晴らしい雰囲気で、最高のサポートの中で戦えて、選手が勝利して多くの人と喜び合えたことを嬉しく思います。私のサッカー人生の中でも、トップクラスに嬉しい勝利でした。開業へ向けて準備してくれた多くの関係者の思いに応えるためにも、ここから勝ち続けていきたいと思います」

 4-1でピースタ初戦を制した下平隆宏監督は、試合後の会見で心から安堵した表情を見せた。

テクニカルエリアから戦況を見守る下平監督(Photo: Hirohisa Fujihara)

 当然だろう。足かけ6年、総工費約1000億とも言われるビッグプロジェクト、その中核施設となるスタジアムでの初陣である。クラブの最大目標であるJ1昇格のためにも負けられないというチーム状況以上に、ピースタのスタートをつまづかせる訳にはいかない事情があった。

 会見場から去り際に指揮官が漏らした「ホッとしました。本当にプレッシャーでしたから。本当に勝てて良かった」という言葉は偽らざる本音だろう。

振動で鼓膜が揺れるほどの臨場感

 当日は、全国放送も含めた100名近い報道陣が詰めかけた。

 その注目度の高さは相当にプレッシャーとなっただろうが、それ以上に強烈だったのが19,011人という入場者の圧だ。ピッチとスタンドの距離が日本一近いスタジアムに詰めかけた2万人弱という数の力は絶大だった。

ピッチとスタンドの距離が最短約5mまで縮まっているピーススタジアム(Photo: Hirohisa Fujihara)

 「今まで以上に熱量が伝わってきて、サポーターと一緒に喜べて、一緒に戦っている感じが一層強くなった」(名倉巧)

 「声援を近くに感じますね。トラスタでやっていたときも聞こえてはいたんですが、こんなに近くはないし、苦しいときに応援を感じてすごく力になりました。ゴールを決めてサポーターのすぐ近くまで駆け寄れるのはこのスタジアムの魅力だと思います」(安部大晴)

 多くの選手が異口同音に語ったとおり、スタンドの熱量はダイレクトにピッチ上の選手へと伝わり、プレーの迫力と意図を持った組織同士が勝負する醍醐味、といったフットボールの魅力はスタンドへ存分に伝わった。ときに歓声、ときにため息、一つひとつのプレーに合せるようにスタジアム中が一喜一憂する様は、サッカー専用スタジアムの持つ魅力だった。……

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Profile

藤原 裕久

カテゴリーや年代を問わず、長崎県のサッカーを中心に取材、執筆し、各専門誌へ寄稿中。特に地元クラブのV・ファーレン長崎については、発足時から現在に至るまで全てのシーズンを知る唯一のライターとして、2012年にはJ2昇格記念誌を発行し、2015年にはクラブ創設10周年メモリアルOB戦の企画を務めた。

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