レッドブル・ザルツブルク、リーフェリング、RBライプツィヒ、ニューヨーク・レッドブルズ、レッドブル・ブラガンチーノに続き、大宮アルディージャをグループ傘下に引き入れてアジア進出を果たしたレッドブル。NTT東日本から全株式を取得したJリーグ史上初の外資単独オーナーが、日本サッカー界にもたらす転換点とは?同じくマルチクラブ・オーナーシップを展開するシティ・フットボール・グループの日本支部、シティ・フットボール・ジャパンで代表を務めた利重孝夫氏が解説する。
レッドブルによるJリーグ参入の背景
レッドブルは理想的なクラブの買収に成功したと思う。過去にもJクラブの保有に興味を持った外資からヒアリングを受けたことはあったが、ターゲットはいずれも東京圏か大阪圏のクラブだったと記憶している。十分なファンベースと、強力なアカデミーを形成するための優秀かつ豊富な若手選手市場があることが必須条件として求められていた。
その点、東京からすぐ北の埼玉県さいたま市をホームタウンとする大宮アルディージャには、ファンベースとアカデミーの潜在力の双方が備わっており、スタジアムやトレーニング施設を含め、買収先として申し分ないクラブだったと思われる。
意外と知られていないのが、Jリーグのルール的にはかなり以前から外資による買収は可能であったこと。ではなぜ今まで噂すらほぼ出なかったのかというと、それは単純に需要がなかったため。リサーチレベルの引き合いは時々あったものの、これまでは海外クラブからの日本市場への興味はほぼスポンサーとしての対象に限定されており、その場合クラブの経営権獲得まで手を延ばす必要はなかった。CFG(シティ・フットボール・グループ)&日産と横浜F・マリノスの関係性が顕著な事例だ。
Jクラブ側の事情もあった。日本では全般的に企業買収に対してネガティブな印象を抱きすぎる傾向がある。責任企業の財務状況が逼迫するなどの緊急事態に陥らない限りマーケットに出てくることはほぼなく、需要供給両サイドの理由からオーナーシップの流動性は極めて低いままであった。
ここ数年、世界的にMCO(マルチクラブ・オーナーシップ)のコンセプトが大流行してきた中で、Jクラブもその一角にと考えた海外クラブや投資ファンドもあるにはあった。1、2年前だったか、とある欧州クラブが数十億円の買収資金を用意して日本市場に参入を試みたが、結果的に撤退してしまったケースもある。Jクラブが売却に出た場合、売り手の意図として、毎年担ってきたランニングコスト(目安10~20億円/年)の財政負担から解放されることが最大のインセンティブとなるため、ほぼゼロに近い金額で市場に出されるが、買収後に現有戦力を維持する、あるいは伸ばしていくためには毎年資金を投入し続ける必要があり、買い手側として投資回収できるポイントがないと判断されたようだ。
では、なぜ今回レッドブルは大宮買収に踏み切れたのだろうか?要因は主に2つあると見ている。
1つは、レッドブルがグローバルなMCO体制をすでに確立させてきた中で、まだ進出できてないアジア市場においてJクラブが最適なターゲットと見なされたこと。もう1つは、若手・中軸問わず日本人選手の市場価値が年を追うごとに質量ともに高まっていることで、レッドブルであればJクラブを保有+追加投資した場合、少なくともグループ全体で投資回収できる可能性が生まれたと判断したからではないだろうか。
加えて、今回も買収価格は過去事例同様極めて少額だったと思われることや、レッドブルが展開するドリンク商材のマーケティングツールとしての価値を見出したこと(F1やエクストリームスポーツへの協賛で若者世代へ訴求してきたが、日本従来のドリンク剤の存在や競合もあり、今日までレッドブルが当初望んでいたようなマーケットシェアを日本では獲得できてはいない状況)なども、日本市場参入の決断を下す後押しになったと感じている。
日本市場に生まれる4つの変化と可能性
それでは、レッドブルの日本市場参入によって何が変わるのか、そして、何がもたらされる可能性があるのだろうか?
ここでは「①クラブ経営の真のプロ化、グローバルネットワーク化」、「②桁違いに充実したアカデミー事業展開の可能性」、「③制度設計、業界慣習変革への積極的なアプローチ」、「④プロジェクトが想定通り進まないリスク」の4つのポイントに着目してみたい。……
Profile
利重 孝夫
(株)ソル・メディア代表取締役社長。東京大学ア式蹴球部総監督。2000年代に楽天(株)にて東京ヴェルディメインスポンサー、ヴィッセル神戸事業譲受、FCバルセロナとの提携案件をリード。2014年から約10年間、シティ・フットボール・ジャパン(株)代表も務めた。