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三笘が“囮”の「中に打ち込むパス」で伏線を回収。中国戦4点目に表れた町田浩樹の真髄

2024.09.10

初戦で中国から7点を奪い、W杯アジア最終予選で実に3大会ぶりとなる白星発進を飾った日本代表。ゴールラッシュを生んだ攻撃陣が脚光を浴びる中で、黒子に徹しながら“影のマンオブザマッチ”とも呼べる働きを披露したのが、左CBの町田浩樹だ。所属のユニオン・サンジロワーズでも不動の地位を築きつつある27歳が4点目で示したその真髄を、現地取材した舞野隼大氏と振り返ってみよう。

パス、CK、クロスで黒子に徹した前半

 9月5日に埼玉スタジアム2002で行われたFIFAワールドカップ26 アジア最終予選の初戦。日本は中国に7-0と大勝を納める結果になったが、攻撃のキーとなったのは左CB町田浩樹だった。ビルドアップからクサビのパスを何本も差し込み、チームをゴールへと加速させる場面が何度も見受けられた。

 日本はこの試合、アジア2次予選のシリア戦でも採用した[3-4-2-1(攻撃時:3-2-5)]のシステムで臨んだ。対する中国は[4-4-2]。2トップが日本のボランチ付近まで下がり、そこから[4-4]のブロックで中央を固めてきた。

 立ち上がり、町田は利き足の左で、個で勝負のできる同サイドのウイングバック、三笘薫につけるパスが多かった。「相手が引いてきたので、(三笘を)サイドで勝負をさせようと考えていました。ただ、サイド、サイドにならず中に打ち込むパスも探っていた」と試合後に話す。実際、カットされはしたが11分にはCF上田綺世へ直接刺し込もうとするパスも見られ、自分が崩しの起点になろうとする意思が表れていた。

 そして、12分に日本が得たコーナーキックに遠藤航が合わせてヘディングシュートを沈め、先制ゴールをマーク。町田はターゲットと競り合いにいこうとする相手選手の進路を遮り、「航くんをフリーにさせるために僕と(板倉)洸くんが動きました。航くんが触れなくても僕が後ろにいたので、練習通りの形でした」と、セットプレーでも黒子役に回っていた。

 スコアが動いた後も、町田の姿勢は変わらない。33分、日本のフィールドプレーヤー全員が敵陣に押しかけていた中で、ボールを受けた背番号16は三笘の方を向き、サイドへの展開を匂わせて中央の上田へパスを直接通す。そこからゴールラインギリギリから折り返したボールは、ゴール前での混戦からラインを割ったように見えたが、オン・フィールド・レビューの介入よって得点が認められなかったものの、ここでも町田がゴールへのスイッチを入れてみせた。

 その後も、日本が押し込み続ける構図は変わらず。38分には左サイドでボールを受けた三笘に対し、相手選手2人がマークにつく。そこへ寄っていったフリーの町田にバックパスが送られると、左足ダイレクトでクロスを上げ再びチャンスを演出。42分にも、町田が高い位置へと駆け上がってゴール前にボールを入れる場面があった。本人は「薫が内側にいい形で入っていってサイドに僕が上がるスペースができたので(攻撃に加わった)。もうちょっと中の選手に感じてほしかったですけど(笑)、全体のバランスや流動性はよかった」と飛び出した際の判断、それまでのチームとしてのスペースの共有がうまくいっていたことを振り返る。

 また、3バックであることで攻撃に加担しても後ろには2枚のCBが残っているため攻守が入れ替わった際のリスクも軽減されるだけでなく、町田が押し込んだ位置でボールを受けられるため、三笘も高い位置で構えてゴールに近いエリアで仕掛けられるというメリットもあった。

「奥につけて3人目」のスイッチ役として

 日本は前半のアディショナルタイムに追加点を挙げて2-0で迎えた後半、中国はシステムを幅の取れる[5-3-2]に変更。大外の三笘、堂安律をあらかじめ見張れる初期配置となり、4バック時に行っていたスライドによる消耗と負荷を軽減したが、日本にとっては2シャドーの周辺にスペースが生まれやすくなる利点もあった。逆に、中央を固めればウイングバックのためのスペースが空き、サイドを警戒すれば中が手薄になる。あとは町田が戦況に応じて、どこへパスを刺し込むか判断するだけになった。

 52分には町田から縦パスを受けた左シャドーの南野拓実が三笘とのワンツーでポケットへ侵入。寄せに来た相手CBをかわし、ファーへの巻いたシュートが決まった。

 そして、町田が手前の味方だけでなく一番奥も見ていたことがわかるシーンが、58分の4得点目だ。……

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Profile

舞野 隼大

1995年12月15日生まれ。愛知県名古屋市出身。大学卒業後に地元の名古屋でフリーライターとして活動。名古屋グランパスや名古屋オーシャンズを中心に取材活動をする。2021年からは神奈川県へ移り住み、サッカー専門誌『エル・ゴラッソ』で湘南ベルマーレやSC相模原を担当している。(株)ウニベルサーレ所属。

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