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サガン鳥栖・木谷公亮新監督が3年半率いたベガルタ仙台ユースに残したもの

2024.08.19

チームのテクニカルダイレクターに就任すると、そのわずか1週間後の8月8日から新監督としてサガン鳥栖の指揮を執ることになった木谷公亮監督。初陣となった浦和レッズ戦ではテクニカルエリアから熱のこもったコーチングを送り続け、1-1のドローで連敗をストップ。J1残留に向けて光の見える戦いを見せた。そんな木谷監督はつい先日までの3年半、ベガルタ仙台ユースの監督としてチームの力を引き上げた。プロの世界を目指す選手たちを成長させるため、ブレない信念の下、どんな困難も言い訳にせず、高校生と一緒に戦い続けた木谷監督の仕事ぶりを、小林健志が振り返る。

コロナ禍に苦しみながらもブレなかった信念

 7月22~25日はベガルタ仙台ユース監督として最後の大会となった第48回日本クラブユースサッカー選手権(U-18)大会のため宮崎へと向かい、指揮官としての仕事を全うした。7月31日にベガルタ仙台ユース監督退任のリリースと、サガン鳥栖テクニカルダイレクター就任のリリースが同時発表となる。そして8月8日にサガン鳥栖監督へ就任。わずかな準備期間を経て8月11日に行われた明治安田J1リーグ第26節浦和レッズ戦に臨んだ。木谷公亮監督のこの数週間は激動だった。

 こうして監督初陣となった浦和戦は、アグレッシブにゴールを目指す姿勢や、守備でしっかり体を張る部分も見せられた。相手に先制を許したが、カウンター攻撃からPKを獲得し、同点に追いつく。その後1人少なくなった相手を攻め立て、逆転できれば最高であったが、あと一歩でゴールは生まれず1-1の引き分け。それでも、こういったサッカーがシーズン終盤までできればJ1残留できるのではないかという期待を抱かせるには十分な内容を見せることができた。こうしてJリーグ監督としてのキャリアをスタートさせた木谷監督は、これまでどんな指導者キャリアを歩んできたのだろうか。

 現役時代の木谷監督は大宮アルディージャ、ベガルタ仙台、サガン鳥栖、FC岐阜でプレー。当時J2だった大宮、仙台ではチームがJ1昇格を決めた年にチームを去り、同じく当時J2の鳥栖ではチームのJ1昇格とともに自身も初めてJ1でプレーした。どのクラブでも堅実な守備対応で大きな貢献を果たした。2014年に引退後は鳥栖に戻り、2015~2018年は鳥栖のトップチームコーチを務めていた。そして2019~2020年は仙台のトップチームコーチとして、渡邉晋監督(現・モンテディオ山形監督)、木山隆之監督(現・ファジアーノ岡山監督)と2人の指揮官を支え、2021年にベガルタ仙台ユース監督へ就任した。

3年半ベガルタ仙台ユース監督を務め、サガン鳥栖監督に就任した木谷公亮監督(Photo: Takeshi Kobayashi)

 木谷監督は仙台ユースの監督に就任するに当たり、「自分が監督をすることによって、ベガルタ仙台の中にユースから良いサイクルが生まれるようにしたいと思いました」と語った。今は大学経由で戻って来た選手も含めてユース出身選手が4人に増えたが、2021年時点ではGK小畑裕馬とMF佐々木匠(現・ヌグリスンビランFC/マレーシア)の2人しかいない状況で、ユース出身選手を増やすこと、そのためにプリンスリーグ東北からプレミアリーグに参入し、強度、技術レベルの高い試合経験を積ませることが木谷監督に求められていた。

 「全員が攻守に関わって、挑戦していく姿勢を見せるサッカーをしていきたいです。インテンシティ、スピード、コミュニケーションを上げていってアグレッシブにやりたいと常に選手にも伝えています」とシーズン開幕前に抱負を語っていたが、そう簡単にはいかなかった。

 就任1年目のプリンスリーグ東北はコロナ禍で4月から5月中旬までの試合が全て延期となり、練習でもさまざまな制約が課される中で、落とし込みたいことがなかなか浸透しない苦しい状況だった。5月中旬の開幕から6試合勝利が無く、7月上旬にやっと初勝利を挙げられたが、優勝争いには絡めず5位に終わった。夏の日本クラブユースサッカー選手権(U-18)大会も初戦のアルビレックス新潟U-18戦に勝利したが、その後2敗でグループステージ敗退となった。

 それでもこの1年で少しずつビルドアップや選手の判断の質は向上した。コロナ禍でイレギュラーな状況に関しても「全てのチームがイレギュラーな状態で戦っていましたので、ある意味たくましくなれる経験だったと思っています」とプラスに捉えて、「当然プレミアリーグプレーオフを目指して戦った中で悔しさがありますが、個人もチームも成長しましたし、充実した1年だったと思います」と信念を持って1年やり続けた成果を語った。

 その成果は2年目、3年目ではっきり表れ始めた。

冷静に戦況を見守る木谷監督(Photo: Takeshi Kobayashi)

目指すサッカーが形になった2年目と3年目の奮戦

 2年目のシーズンは、プリンスリーグ東北でも勝利を積み重ねて優勝争いに絡めるようになっていった。前半戦は7連勝を挙げ、尚志高と激しいプレミアリーグプレーオフ出場権争いを繰り広げた。結果的には終盤の尚志高戦に大敗し、その後連敗を喫して3位に終わったが、安定したビルドアップができるようになり、試合内容には向上が見られた。

 日本クラブユースサッカー選手権(U-18)大会でも、グループステージ初戦でFW後藤啓介(現・RSCアンデレヒト/ベルギー)を擁したジュビロ磐田U-18に対し、2-1で勝利した。FC東京U-18戦は0-4と大敗。最終戦となるロアッソ熊本ユース戦はコロナの影響で熊本ユースが出場辞退となったため、このグループは全チームが1勝1敗となり、得失点差でノックアウトステージ進出を逃したが、この頃からどんな相手でも攻撃的に前へ出る姿勢がはっきりと表れるようになった。……

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サガン鳥栖ベガルタ仙台木谷公亮育成

Profile

小林 健志

1976年3月8日生まれ。静岡県静岡市清水区出身。2006年より宮城県仙台市を拠点にフリーライターとしてサッカーの取材を始め、J1ベガルタ仙台、J3福島ユナイテッドFCといったJリーグクラブの取材の他、少年から高校までの東北の育成年代、またアマチュアや女子サッカーなど幅広いカテゴリーで取材を行っている。『サッカーダイジェスト』、『サッカークリニック』、『河北スポーツマガジンStandard宮城』、『岩手スポーツマガジンStandard』、『青森ゴール』などの雑誌や、サッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』、Jリーグ公式サイト(J3福島担当)、『ゲキサカ』などWeb媒体に寄稿。2017年聖和学園高男子サッカー部加見成司監督著書『聖和の流儀』(カンゼン)の構成も担当。ライター業とともに、2012年より仙台市内の私立高校で非常勤講師として理科(生物)の授業も担当。

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