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斉藤光毅から永田滉太朗へ。10代での欧州移籍で横浜FCを経由するメリット。横浜FCの知られざるMCO戦略(後編)

2024.08.18

レッドブル・グループの大宮アルディージャ買収で日本でもマルチクラブ・オーナーシップ(MCO=複数クラブ保有)が注目されているが、実はJリーグにはすでにMCOを実践するクラブが複数ある。シティ・フットボール・グループに所属する横浜F・マリノスは有名だが、ONODERA GROUPの傘下にある横浜FCも独自のプロジェクトを展開しているのだ。ONODERA GROUPは2022年11月にポルトガル2部UDオリヴェイレンセの経営権を獲得し、現在は横浜FCの代表取締役CEOを務める山形伸之氏がオリヴェイレンセの代表を兼任している。今回はその山形氏とコミュニケーション戦略を主導している松本雄一氏にこのプロジェクトの全貌を語ってもらおう。

後編では、アカデミー出身の斉藤光毅の欧州移籍が与えた影響、18歳でUDオリヴェイレンセにレンタル移籍した永田滉太朗の現状、Jクラブが後ろ盾にあることで語学や現地在住スタッフによるサポートができるという、山形CEOが語る「横浜FCを経由するメリット」「再現性・確率を上げる作業」の実態について解説してもらった。

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斉藤光毅はMCOプロジェクトのモデルケース

――アカデミー出身で19歳で欧州に羽ばたいた斉藤光毅は今回のMCOプロジェクトの1つのモデルケースだと思います。彼のケーススタディが与えた影響はどんなものでしょう?

松本「斉藤光毅選手のようなプレーヤーを輩出していくためのプロジェクトとも言えるので、アカデミーコーチ、クラブスタッフ、そしてサポーターも含めて斉藤光毅のような例があったからMCOプロジェクトに理解を示してくれるということはあると思います。あと彼が残してくれた移籍金、連帯貢献金で作ったアカデミーのグラウンドができたことで、育成の練習環境に投資できるという実例をクラブ関係者が体験したことも大きいですね。

 実は僕は19歳で光毅が移籍すると決めた時、『まだ行かない方がいいんじゃないか』と正直思っていたんです。まだトップチームで出たり出られなかったりの状態でロンメルからオファーが来たんですけど、『来年、J1でしっかりプレーしてからでいんじゃない』かなと。今振り返ってみると、あのタイミングで行っていなかったら今のようなステップアップの絵は描けていなかったなと感じています。そういう経験があったからこそ、若手が早いタイミングでステップアップしていくことが選手のキャリア形成、ひいては日本サッカーが強くなっていくことにつながっていくと考えるようになりました。横浜FCからオランダのNECナイメヘンに移籍した小川航基のような選手も出てきて、サポーターの考え方も横浜FCから日本代表選手が出てくるんだったら応援しようという風に少しずつ変わっている感触はあります」

――海外移籍を推奨すると、Jリーグが通過点であることを認めることになります。ファン・サポーターの感情としては複雑なのかなと想像しますが……。

松本「MCOの話をサポーターにする上で一番気をつけていたのは、若手の有望株をポルトガルのクラブに抜かれると思われることでした。そういう声も実際に届いていましたしね。ただ、光毅の例を出すことでお金の面も含めて、これだけクラブにメリットがあると丁寧に伝えました。アカデミーの練習環境に投資ができて、次世代の育成につながっていくし、若い選手たちの夢を叶える後押しもできる。こうした話をある程度納得してもらえるのも、光毅の移籍が影響しているんじゃないかなと思います」

2021年冬に横浜FCからシティ・フットボール・グループ傘下のロンメルへ完全移籍した斉藤。スパルタでの2年間の武者修行を挟み、2024-25シーズンはQPRへと貸し出されている

「他のJクラブにも開放したい」U-23チームの活用術

――しかも斉藤光毅のようにアカデミーに長い期間在籍している選手は、移籍するたびに連帯貢献金が入ってきますからね。

松本「そうしたアカデミー選手のステップアップに再現性を持たせるのがオリヴェイレンセとの関係ですし、さらにはポルトガルのU-23リーグに参加するチームを持つことで、Jリーグで試合に出られない18歳から21歳の選手のプレー環境を作ることにも協力していきたいと考えています。そこから欧州でステップアップしていければベストですが、21歳以降に横浜FCに戻って来るというキャリアパスもあり得ますからね」

――他のJクラブの若手にも枠を開放していくのはユニークな試みですね。

山形「ポルトガルのU-23は将来を期待されたタレントが集まるリーグで、ヨーロッパ中からスカウトが集まるので、そこに横浜FCの選手を置きたいですし、他のアカデミーでトップに上がったけれど出られない選手たちを預かってお互いにパートナーになって一緒に価値を上げていくというのは、ビジネスとしても成立すると考えています」

――オリヴェイレンセはU-19チームがすでにあって、U-23は準備中なんですよね。

松本「はい。U-23はライセンスの取得は完了したんですけど、リーグには今シーズン招待されなくてまた来年目指す形になりました。U-19リーグの方は昨シーズン1部に昇格できたので、永田滉太朗のように18歳で向こうに行った選手がトップチームでプレーし試合出場を目指しながら、U-19の試合でもポルトやベンフィカと対戦できる環境を用意できます。早くからヨーロッパに行って向こうの市場に自分の名前を置いておける状態を作れるのは、すごく重要なことだと考えています。横浜FCユースの高校3年生の高橋友矢がオリヴェイレンセに期限付き移籍をしましたが、彼はトップチームでの出場を目指しながら、U-19でもポルトガルの強豪クラブと同じ舞台で見せながら、試合経験を確保して育てることができます」

――ポルトガルのU-23はどういうリーグなんですか?……

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Profile

浅野 賀一

1980年、北海道釧路市生まれ。3年半のサラリーマン生活を経て、2005年からフリーランス活動を開始。2006年10月から海外サッカー専門誌『footballista』の創刊メンバーとして加わり、2015年8月から編集長を務める。西部謙司氏との共著に『戦術に関してはこの本が最高峰』(東邦出版)がある。

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