現イングランド代表に19人を輩出!日本人選手も続々挑戦中!「世界有数の下部リーグ」EFL、チャンピオンシップが侮れない理由
来たる2024-25シーズンは橋岡大樹(ルートン)、坂元達裕(コベントリー)、角田涼太朗(カーディフ)に、大橋祐紀(サンフレッチェ広島→ブラックバーン)と平河悠(FC町田ゼルビア→ブリストル・シティ)の参戦も決定したEFLチャンピオンシップ。J1クラブからの加入組には「なぜ英2部へ移籍するのか?」という声も相次いだが、侮るなかれ。現イングランド代表に19人を輩出しているEFL(英2~4部)とその頂点であるチャンピオンシップの魅力を、2023-24シーズンを現地観戦したEFLから見るフットボール氏に教えてもらおう。
フットボールの楽しさとは何だろうか。心を打たれる感動と言う人がいれば、目を見張る技術だと言う人がいる。非日常性だと言う人もいれば、ふとしたところに垣間見える選手の等身大の姿だという人もいる。答えはない。それは人それぞれに持つべきことであって、答えを決める必要自体がないだろう。
それは同時に、フットボールの持つ多面性を示唆してもいる。私に言わせれば、その最大の魅力は「矛盾」だ。ボールをゴールネットの中に入れることが目標の競技で手を使うことができない。大胆にも「祭典」と宣うオリンピックやW杯のような一大イベントで、疑惑の判定をはじめとする人災そのものと言うべき事象が脚光を浴びる(起きないに越したことはないが)。その矛盾に心を揺さぶられ、選手たちの奮闘や多種多彩な方法論に釘づけになる。根本的に矛盾を孕んだフットボールだからこそ、他にはない楽しみがある。
だから私はEFL(英2~4部)に、チャンピオンシップ(英2部)に、心を奪われた。
「English Football League」なのに下部リーグ。「チャンピオンシップ」なのに2部リーグ。名は体を表すとはまさにこのこと、フットボール界において一番リッチで注目を集めるイングランド・プレミアリーグのすぐ下には、最も矛盾にあふれたクレイジーな世界が広がっている。
どこがどこに勝ってもおかしくない混沌とした競技性。プレミアリーグがもう失ってしまったように見える英国古来のファンカルチャーが残る観客席。他国のトップリーグからすらも集まる優れた選手、そして個性豊かな監督たち。現場・論評側の両面で目を見張る進歩を見せるデータ活用の広がり。
そして何より、この2024年にかつてない高まりを見せる、日本人選手への関心。
EFLチャンピオンシップはこの夏、2004年の名称リブランド後から数えて21シーズン目を迎える。毎年更新され続ける「史上最高のシーズン」の連続性へと興味を抱くのに、遅すぎることなど決してあるまい。
現イングランド代表の19人も卒業生。「EFLは若手に最高の環境」
EURO2024のメンバー26人中19人。2024-25シーズンのチャンピオンシップを含むEFLは、誇らしい「卒業生」たちが大半を占めたイングランド代表のドイツでの奮闘から地続きでもって、8月9日に幕を開ける。
「私にとって(EFLクラブへ)ローンに出たことは、キャリアの中で取った最良の選択だったと思っています」
「若手にとってEFLは最高の環境ですから」
リーグ2(英4部)のバートン、リーグ1(英3部)のカーライルとブラッドフォード、そしてチャンピオンシップのプレストンでその腕を磨いたジョーダン・ピックフォードは、数々の成功をつかんだ後の2022年にさえ、そう胸を張って話した。“スリーライオンズ”の守護神は87試合、ラウンド16スロバキア戦で途中出場から流れを変えたアイバン・トニーに至っては、現代表で最多となる実に273試合。EFLが提供した貴重な経験が、今日の彼らを形作っている。
そのエースでキャプテンのハリー・ケインのブレイクスルーを語る上で、今やあまりにも有名なレスター時代のジェイミー・バーディーと隣同士に座る1枚を欠かすことはできない。10番を背負うジュード・ベリンガムについても、7歳から籍を置くバーミンガムで16歳にしてチャンピオンシップ41試合に出場した2019-20シーズンの衝撃を語り継がなければならない。ブラックバーン退団から半年でEUROまでたどり着いたアダム・ウォートンの旅路も記憶に新しい。
不可解極まりない『テレグラフ』紙からの解雇によってフリーランスへと立場を変えた当代屈指の論客、ジャーナリストのヘンリー・ウィンターもEURO2024の開催中、まるでbotのようにX上でイングランド代表へのEFL、そのさらに下も含めたピラミッド構造の貢献をリマインドし続けた。それは明らかに、あの論争と呼ぶのも烏滸がましいようなFAカップのフォーマット変更の断行とともに、イングランドの下部クラブにさらなる苦境を強いるFA(イングランドサッカー協会)に対しての強いメッセージだ。
なぜEFLで経験を積んだ選手が代表でも重宝されるのかを考える上では、そのFAが育成改革を行い国全体の若手のレベルが長期にわたり向上したこと、そしてギャレス・サウスゲイトが知名度に囚われない選手起用に何のためらいも持たない指揮官であったことも、もちろん要素としては大きい。しかしその一方で、育ち盛りの若手たちにとって「世界有数の下部リーグ」が国内に存在することの好影響にも想像が広がる。
言うまでもなく、リザーブリーグの試合と下部リーグでの公式戦の間には本質的な部分での決定的な差異が存在している。どこの国でもそうだろう。下部リーグに存在するのは徹底的な「リアル」だ。プロとして翌シーズンの契約を確保するのに必死なベテランたちがしのぎを削り、技術で適わない相手にはなりふり構わぬ方法論をこれでもかと駆使してくる。とりわけイングランドのプロレベルではリーグ戦だけで46試合、その他カップ戦も含めれば60試合近くにも上ることがある過密日程まで横たわる。
その下部リーグにおいて、他の追随を許さない競技・運営レベルが存在している意味は計り知れない。EFLの中では最下層であるリーグ2でさえ、昨季途中にモアカムの指揮官を辞してスコットランド1部のロス・カウンティへと移ったデレク・アダムズ監督が「スコットランドのリーグレベルは衝撃的です。リーグ2で最低の予算規模だった前のクラブ(モアカム)でさえ、このチームよりは100倍優れています」と語ったほどだ(その後アダムズはモアカムに復帰した)。
……
Profile
EFLから見るフットボール
1996年生まれ。高校時代にEFL(英2、3、4部)についての発信活動を開始し、社会学的な視点やUnderlying Dataを用いた独自の角度を意識しながら、「世界最高の下部リーグ」と信じるEFLの幅広い魅力を伝えるべく執筆を行う。小学5年生からのバーミンガムファンで、2023-24シーズンには1年間現地に移住しカップ戦も含めた全試合観戦を達成し、クラブが選ぶ同季の年間最優秀サポーター賞を受賞した。X:@Japanesethe72