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筑波大学蹴球部・戸田伊吹ヘッドコーチが振り返る天皇杯120分間の真実(前編):FC町田ゼルビア戦

2024.08.06

今年の天皇杯の大きなトピックスとして語り落とせないのは、筑波大学の奮闘だろう。2回戦ではFC町田ゼルビアと互角に渡り合い、PK戦の末にJ1首位を鮮やかに撃破すると、3回戦でも柏レイソルと延長までもつれ込む激闘を演じ、最後は力尽きたものの、大学サッカー界を牽引するチームの真価と意地を十二分に披露してみせた。そんなチームの指揮を執っているのは、大学4年生のヘッドコーチである戸田伊吹。自身もプロを目指せる実力を有していたにもかかわらず、2年時からは選手を辞して、指導者の道に足を踏み入れている。今回は戸田ヘッドコーチに天皇杯の2試合をたっぷりと語ってもらうインタビュー企画。前編ではFC町田ゼルビア戦の120分間について、いろいろな角度から振り返ってもらう。

町田の試合は事前に7試合チェックしていた!

――今回は天皇杯2回戦のFC町田ゼルビア戦を振り返っていただければと思っています。まずはプレマッチの部分として、1回戦で明治大学に勝ったのが5月26日で、そこから6月12日の町田戦までに関東大学リーグの2試合(6月1日/東海大学戦、6月8日/東洋大学戦)があったわけですが、町田戦の準備はいつごろから始めたんですか?

 「正直なところ、本格的に始めたのは東洋大戦が終わった直後からという感じですね。試合は東洋大戦の準備と並行して少し見ながらも、東洋大戦から中3日で町田戦でしたし、『3日間あればガッツリ準備はできるかな』と思っていたので、東洋大戦が終わった直後にスタッフみんなで集まって、どうするかという話をしました」

――この試合に関わった分析スタッフはどのぐらいの人数だったんですか?

 「今、中村悠紀という3年生でアナライズ班のトップをやっているアナリストがいるんですけど、彼がほぼメインでやっていました。それで足りないところを他のアナライズ班のメンバーが埋めてくれましたね。それこそ個人映像の切り抜きや、PKのデータ収集等は他のメンバーがやってくれて、メインは中村がやってくれていました。中村もだいぶ気合が入っていました(笑)」

町田戦でベンチの前に立つ筑波大学のスタッフたち。左から1番目が小井土監督、2番目が戸田ヘッドコーチ(Photo: ©筑波大学蹴球部広報局)

――具体的に言うと、町田の試合は何試合ぐらい前まで振り返って見たんですか?

 「僕は7試合ぐらい見ました。Jリーグの直近の試合と、基本的にはルヴァンカップに出ていたメンバーで来るのかなと思っていたので、ルヴァンの北九州戦と鹿島戦ですかね。それを3日間でバーッと見ました」

――実際に試合を見て抱いた町田のイメージはどういうものでしたか?

 「攻守においてアグレッシブなチームだなというのが一番の印象でした。あとは『すべてが速いな』と。攻守の切り替えもそうですし、プレッシングを掛けて、ボールを奪ってからゴールまで迫るスピードがメチャメチャ速くて、中村がまとめてくれたデータを見ても、ボールを奪ってからシュートに行くまでの時間の短さはJ1でもトップクラスでしたし、そういう強度の部分は大学リーグとは別次元のチームだなと思っていました」

――少しお話してくれましたが、相手がどういうメンバーで臨んでくるかはほとんどわからないと思うんですね。その中で相手の個々の選手の特徴は、どのくらいまで分析したんですか?

 「ルヴァンに出ていたメンバーや、基本的に出てくるんじゃないかと思っていたメンバーの把握はしていたつもりです。ただ、前日ぐらいに読んだ記事で黒田(剛)監督が『ターンオーバーします』みたいなことを会見で明言していたというのを見て、『ああ、これはターンオーバーで来るんだ』とわかったので(笑)、もう1回自分の中で出てきそうなメンバーの特徴を頭の中に入れました」

――選手たちとは町田戦に向けてのミーティングは何回ぐらいしたんですか?

 「東洋大戦から町田戦までは3日間あったので、最初の2日間はリカバリーをして、3日目のトレーニング前に『こんな感じで行こうと思っている』という資料を見せて、ピッチで確認しました。なので、ミーティングはその時と試合の日の2回ですね」

――町田がやってきそうなことは結構細かく伝えたんですか?

 「はい。いつもより少し細かい資料を作って、選手たちに見せました」

――たとえばこの試合に出てきそうな選手で、特に注意していた選手はいましたか?

 「エリキ選手は出てくるかなという予想はありましたし、ミッチェル・デューク選手もオーストラリア代表から帰ってきていたので、この2人が一番気を付けないといけない選手かなと。2人とも特徴がハッキリしていて、大学のリーグにはないレベルのスペシャリティを持っているので、そこに対してウチの選手がどう対応するかは頭を悩ませたところもありました」

筑波大学戦の1週間前、ルヴァン杯プレーオフ第1戦のセレッソ大阪戦でゴールを奪い、調子を上げていたエリキ。昨季は18ゴール6アシストで町田のJ2初優勝を牽引し、リーグ最優秀選手賞にも輝いた

「一番最初に思ったのは『ミッチェル・デュークいるじゃん!』って(笑)」

――筑波自体の戦い方はどういうものをイメージしていましたか?……

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Profile

土屋 雅史

1979年8月18日生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社。学生時代からヘビーな視聴者だった「Foot!」ではAD、ディレクター、プロデューサーとすべてを経験。2021年からフリーランスとして活動中。昔は現場、TV中継含めて年間1000試合ぐらい見ていたこともありました。サッカー大好き!

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