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スパーズファンとJリーグファンを繋ぐ旗振り役に!伊沢拓司と考えるJWCの意義【来日記念インタビュー後編】

2024.07.22

スパーズは日本でもさらに盛り上げていけるクラブ――。33年ぶりの「遅すぎる」来日を今か今かと待ちわびるトッテナムサポーター、その一人が“東大クイズ王”としてお馴染みの伊沢拓司だ。7月27日に国立競技場で行われるヴィッセル神戸戦を前に、このチームを応援し続ける理由からJリーグワールドチャレンジ開催の意義まで、たっぷり語ってくれたインタビューを前後編でお届けする。

インタビュー 玉利剛一(フットボリスタ編集部)
編集 赤荻悠(フットボリスタ編集部)

写真 鈴木奈保子

※前編はこちら

プレミア、Jクラブ、NEXZのファンを巻き込んで

――ここまでトッテナムの話をお聞きしてきましたが、『明治安田Jリーグワールドチャレンジ2024powered by docomo(以下、JWC)』についてもご意見を伺いたいと思います。2023年からスタートした「Jリーグ王者 vs 欧州強豪クラブ」という構図の親善試合には、どのような開催意義があると感じていますか?

 「まずシンプルに世界トップクラスのプレーを日本で見られるというのはすごいこと。僕は日韓ワールドカップでサッカーにハマった人間ですし、相次いで海外クラブが来日して注目を浴びるというのは非常に価値があることだなと思っています。 以前、パリ・サンジェルマンが来た際にはTBSさんと一緒に様々な施策に関わらせていただいたのですが、やっぱりスター軍団が来日して、いろいろな場所に現れて連日ニュースになるというのは、海外サッカーの露出が必ずしも多くない日本においてはすごく貴重な機会ですよね。とにかくまず情報量が増えることに意味があって、それで子供たちにもサッカーの認知が高まり、そこからエンブレムがかっこいいなでも、あの選手が好きだなでも、アパレルがイケてるなでもいいですし、入口がたくさんあることに意味があるんだと思っています。

 日本のクラブからすると、やはり世界との距離を測れるのが良いですよね。昨年もそういう発言を見かけましたが、『こういう局面においては、自分たちも通用する』みたいなコメントをする選手もいるじゃないですか。『フィジカル的な差はあるけど、足下の技術では負けていない』とか。実際、マンチェスター・シティを相手に横浜F・マリノスはうまく戦えていましたし、日本の選手にとっては世界の基準を知る絶好の機会になりますよね。若手も出場機会を得られますし。別にお互いが全力でバチバチにぶつからなくても、プロからすれば実力はわかるわけで、そういう意味では日本の選手が海外に羽ばたいていく上で重要なチャンスになっているのかなって。

 また、昨年シティを見に行った知り合いが、マリノスのことを好きになったと言っていました。そうやって海外サッカーファンが日本のクラブを好きになることも起こり得るし、欧州勢にとってはプレシーズンマッチでインテンシティが高くないにしても、組み合ってやることに大きな意味があるんだなと感じましたね」

――昨年の横浜F・マリノス対マンチェスター・シティは国立競技場に 6万人以上の観客を集めました。一方で動員に苦戦する会場もあり、数ある来日マッチの中でも集客面では差が生まれつつあります。JWCの注目を高める上で必要なことは何なのでしょう。

 「今回のトッテナム戦では『NEXZ』という日韓合同オーディションから生まれたグループがハーフタイムショーをやってくれるそうですが、それで見に来てくれる知り合いもいるんですよね。推しがライブやるから行こうかなって。その人はブライトンのサポーターなんですが『トッテナムは見たことあるし、推しも来るから見に行こうか』というテンションなわけです。合わせ技一本ですよね。なので、ちょっとしたきっかけ、 背中を押してくれるポイントがあると見やすくて、同リーグのファンなど、来るか来ないかギリギリのラインにいるような人を巻き込んでいくこと、そのための施策、魅力の訴え方というのが大事だと思います。

 加えて、ターゲットにするならやっぱりJファンじゃないでしょうか。ヴィッセル神戸をはじめJクラブのサポーターの方に、これは見たいなと思ってもらえるように海外クラブを紹介していく必要がある。僕自身もトッテナムの選手のこういうところを見てほしい、Jのこういうチームや選手に似ている、みたいなことはアピールできるといいなと考えているので、ここから試合当日まで頑張って発信していきたいですね」

多角的な目線でJWCの開催意義を語る伊沢さん

ヴィッセルサポーターともいっぱい喋りたい

――伊沢さんをきっかけに、今夏トッテナムを見てみようと考えている方もいると思います。

 「少ないながらもそうしてフットボールを見始めてくれた人はいますし、あとはシンプルにコミュニケーションが生まれますよね。SNSに場があることでスティッキネスが働く、コミュニティを覗いてくれるようになるんです 。明らかにスパーズのファンがこの5年で増えて、SNSコミュニティも大きくなりました。みんなとスパーズの話ができますし、情報が更新されて思い出したように試合を見るから 、スパーズファンで居続けるみたいなことが起こるわけですよ。

 となると、JWCの後はヴィッセルサポーターの方ともいっぱい喋りたいなと思いますし『こういう試合だったね、この選手よかったね』みたいな会話が生まれて、次はスパーズを見てみようかとなった時にまた会話の場があると、スパーズのファンにとどまってくれる。逆に我われも神戸のファンにとどまったり、神戸の選手を追い続けたりってことが起こるとすごくいいなと思うので、試合が終わった後、それこそ国立周辺でみんなで語り合える大規模なビアホールがあったりするといいのかもしれないですよね。まずはこのJWCという取り組み自体が、サッカーの面白さをより広く伝えるために、日本のみなさんに認知されるためにすごく意味があるし、来年、再来年に向けてさらなる観戦環境の充実を期待したいです」

――トッテナム好きの有名人は伊沢さん以外にもいらっしゃるのですか?

 「少ないですねぇ。声優の濱野大輝さんがサポーターで、SNSで交流はあるんですけど、リアルでお会いしたことは一度もなくて。やっぱり他クラブのファンが多くて、サッカー好きの方でも“トッテナムは……最近どうなん?”くらいの認識なんですよね。

 やはり遠い国にある、気を抜くとだいぶ連敗したりするようなクラブを応援するのには、胆力が要ります。ある程度自分から情報を取らないと面白いと思えるところまではいかない。だから、情報はファン獲得のためにとても大事です。日本はスパーズ・ジャパンさんの発信があったり、各地のファンダムがあるのでなんとかなってますけど、今回の来日を機にいろいろなファンの方に繋がってほしいなと思いますし、僕にできることもやっていきたいです 。スパーズサポーターにはマイナー時代から見ている大先輩方が多くいらっしゃいますし、noteなどで発信している分析力が高い人もたくさんいて、レガシーはすごくあります。それこそ『スパーズ・ジャパン』は日本最大級のサポーターズクラブであり、過去記事も全部検索できますし。情報は転がっているから、それにうまくアクセスできるような形を作ってあげられたら、スパーズは日本でもさらに盛り上げていけるクラブなのかなと感じていますね」

――過去に寄稿いただいたfootballistaの記事でも“逆張り派”を自称されていた伊沢さん的に、今大会において独自の目線で注目していることを教えてください。

 「やっぱり若手ですかね。若手が出てくる特に試合後半が面白いポイントで、そこで自分だけの推し若手を見つけて今後その成長を楽しむというのもオススメです。トッテナムだとマイキー・ムーア(16歳/FW)とタイリース・ホール(18歳/MF)という素晴らしいU-18のタレントがいてですね。この2人は間違いなく出てくるんじゃないかと僕は思っています。

 特にムーアはハリー・ケイン以上に才能を感じるとファンのみんなが口々に言うほどの逸材ですから、この名前は覚えておいてほしいですね。来日する他のクラブでも、例えばニューカッスルでは18歳になったばかりなのにトップチームに馴染んでプレミアの試合にガンガン出ていた中盤のルイス・マイリーをはじめ、生きのいい若手がたくさんいますから。怪我しちゃったんでどうなるかわからないですけど。筋金入りのスパーズサポーターは、むしろ後半の方が嬉しいかもしれない。ユースの選手がのびのびプレーするのを見たいんです。ぜひJのファンにも、10代の若者でもこんなにすごいのかと驚いてほしいし、トッテナムやプレミアリーグに興味を持っている方には、これから見ていく中であなたがドヤれる有望株を青田買いしてもらえればと思います」

伊沢さんがイチ推しの若手選手として挙げたマイキー・ムーア(右)

サポーターがみんなで奏でるチャントを耳で聞いてほしい

――JWCにはホスピタリティチケットという、専用の個室で観戦できたり、ウォーミングアップを見学できたり、ビュッフェを楽しめたりする特別なチケットが用意されています。サポーターの目線から、こういう特典があったら買いたくなるという要望やアイデアはありますか?

 「やっぱり選手たちと触れ合えるというのはポイントになってきますよね。何かスペシャルな記念品がもらえるのも嬉しい。僕は家にホワイトハートレーン(旧ホームスタジアム)のベンチを飾っているのですが、 例えば選手のレガースとか、その日にしか使わなかったようなものが手に入ったり。もちろん写真でも全然いいですけどね。(クラブOBの)レドリー・キングやオジー・アルディレスと写真が撮れるだけでも十分嬉しいので。

 でも僕のファン感覚でいくと、シンプルにスタンドで応援したいんですよね。今回のチケットもスタンドで、ゴール裏で買っているんです。ファンの仲間と一緒に声を出したいという気持ちがすごくあるので。だからもしかしたらホスピタリティチケットの特典の一つとして、試合中はスタンドの席にも移動できる、というのが可能であるといいのかもしれない。今はグッズを買うことでしかクラブに“課金”できていないから、せめて今回はチケットをいっぱい買って知り合いのスパーズファンとかサッカーファンを全員呼び寄せました。僕みたいにクラブへと課金をしたいサポーターは少なくないはず。一方で、 サポーターの中には一定数、スタンドで応援するのが魅力だと思っている人がいるんですよね。となると、ホスピタリティチケットを通して課金するのはやぶさかではないけど、スタンドには行きたいという層がいる。 2つチケットを買えないから、1つだけスタンドで買ったという人が、たぶん僕以外にもいるはずなんです。 ですので、試合中は応援の熱気に入れるみたいなことはポイントになるのかもしれません」

――興味深い視点です。ちなみに、昨年に続き今年もJWCではゴール裏を含めて小中高校生価格が設定されています。夏休みの少年少女たちが観戦しやすい価格でチケットが発売されていることには意義がありますね。

 「それはめちゃくちゃあると思います。僕自身、レアル・マドリ―を見た東京ドームの興奮がいまだ脳裏に焼きついていますから。中高生になるとプレーの質もよくわかるでしょうし。でも最近は小学生のレベルもすごいですよね。僕の知り合いも、小6の息子のサッカーを見るのが一番楽しいって。吸収が早いし、サッカーIQが高いから、小学校のサッカーが自分たちの時代とは別物だと言っていました。そうなると彼らに世界トップクラスの刺激を与えるというのは、僕らの頃以上に意味があることだと思うんですよ。

 なので、そこにプラスアルファする要素があるとしたら、試合前にちょっとティーチングする時間を設けるとか。トッテナム戦に小中高生が来るのであれば、もちろん僕がやっていいのかって話はありますけど、30分でもスパーズサッカー教室をやりたいですよね。他には、欲を言えば国立競技場は小学生からするとピッチが遠いので、中継ビジョンが手元にあったりすると見やすいのかなと。フットボールを応援する熱狂を耳と肌で感じつつ、試合自体は俯瞰でも見られる。当然お金の面でハードルはあると思いますが、小学生にとっては遠くから見るピッチって難しいし、普段から応援しているチームじゃないから余計に集中が難しい……となったときに少し見やすい工夫をしてあげられると、よりファンをつかめるのではないかなって」

昨年のJWCでも一部席種のチケットは小中高校生価格が設定され、多くの子供たちが観戦した

――試合中継に関しては以前「これからの時代のサッカーをどう伝えていくか」というテーマで戸田和幸さんと対談をしていただきました。JWCはドコモの映像配信メディア「Lemino」で無料配信されますが、日本のサッカーファンにより興味を持ってもらうためにはどのように伝えることが重要だと思いますか?

 「やっぱり選手のすごさですよね。ここがすごいって話はいっぱいしてほしいなと思います。トッテナムの選手はこういうところが強みで、それに対して日本の選手がしっかり戦えているという部分を伝えてあげる。ファン・デ・フェンと競り合って、そのガタいで負けてない武藤(嘉紀)選手がすごいみたいな話ができるわけで、どこがどうすごいんだと教えてあげることが、シンプルですけどとても大事なのではないかと。システム論になるとちょっと難しいですから、まずは選手個人のすごさにフォーカスしていただきたいですね。

 加えてトッテナムというチームに関して言えば、我われは声援がすごいチームなんですよ。プレミアリーグ中継をテレビで見ていても特にそうなのですが、アウェイゲームなのにめちゃくちゃウチの声が聞こえてくるんです。ファンダムがすごく熱くて、今年は日本のスパーズサポーターがとにかく大勢国立に来る。SNSで見ている感じでは、一生に一度だからここで集まろうぜ感がすごいわけですよ。そんなサポーターがみんなで奏でるチャントを耳で聞いてほしい。海外のクラブが来て、こんなにサポーターの応援が聞こえるんだっていうのを日本のみなさんに感じてほしいので、もう目一杯、僕も声を出したいと思います!」

Takushi IZAWA
伊沢 拓司

私立開成中学校・高等学校、東京大学経済学部卒業。中学時代より開成学園クイズ研究部に所属し開成高校時代には、全国高等学校クイズ選手権史上初の個人2連覇を達成。2016年に、「楽しいから始まる学び」をコンセプトに立ち上げたWebメディア『QuizKnock』で編集長を務め、登録者数200万人を超える同YouTubeチャンネルの企画・出演を行う。2019年には株式会社QuizKnockを設立しCEOに就任。クイズプレーヤーとしてテレビ出演や講演会など多方面で活動中。ワタナベエンターテインメント所属。

Photos:Nahoko SUZUKI, Getty Images

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