SPECIAL

アタランタで復活を期すザニオーロ。「問題児」が生まれ変わったアストンビラでの序章

2024.07.16

7月5日、EL王者のアタランタはニコロ・ザニオーロが所属元のガラタサライから1年間のレンタルで加入することを発表した。かつてローマ時代に「神童」として名を馳せたものの、ケガに泣き続けたイタリア代表MFも25歳。慣れ親しんだカルチョで復活を期す2024-25シーズンを前に、前季のローン先であるアストンビラで生まれ変わった「問題児」の今を紹介する。

 「彼は若者としてクラブにやって来たが、子供のように去った」。

 これは2023年2月にローマがニコロ・ザニオーロのガラタサライへの移籍を発表した際に、現地のロマニスタの1人がX(旧Twitter)で投稿した一文だ。

 これだけローマサポーターを怒らせたのには理由がある。

 2018年夏の移籍市場で、元ベルギー代表MFラジャ・ナインゴランと入れ替わる形でインテルから加入したザニオーロは、1年目から当時19歳という年齢を感じさせない堂々としたパフォーマンスで瞬く間にロマニスタの心をつかんでみせた。

 190cmという長身と端正な顔立ちに加えて、ストライドの大きなドリブルで強引に持ち運んで決定機に絡む姿は、利き足は違うが、彼のアイドルでもある元ブラジル代表MFカカを彷彿とさせる。2017年夏にフランチェスコ・トッティが引退、2019年夏にはダニエレ・デ・ロッシが退団とチームの顔がローマを去る中で、若き神童に期待を抱いたサッカーファンも多かったはずだ。

 しかし、2020年の1年間だけで、立て続けに左膝と右膝の前十字靭帯断裂の大ケガに見舞われるなど、相次ぐ負傷が彼の前に立ちはだかった。そんな状況でもローマはザニオーロの成長を暖かく見守っていたが、2021-22シーズン終了後に契約延長交渉でクラブと給与をめぐって揉め、その半年後の移籍市場にて練習参加拒否など強硬手段を取って移籍を志願した。

 これには当時ローマを率いていたジョゼ・モウリーニョ監督も「ファミリーの中にいたくなくなったら出て行かなければいけない」とコメント。未来を託すほどに期待していたローマを裏切るような行為になり、武装したサポーターがザニオーロの家を囲って脅迫する大事件にも発展した。

モウリーニョとすれ違うザニオーロ。写真は2021年8月

 この世間を賑わせた退団騒動からおよそ1年半、ザニオーロが再びカルチョの舞台に帰ってくる。今夏にガラタサライからの買い取りオプション付きのローン移籍という形で、昨季のEL王者アタランタの一員となった

 ローマで「ワガママ」というレッテルが貼られたかつての神童のイメージは世間一般には変わっていないだろう。しかし、現在の彼は少なくとも「問題児」ではない。イタリアを離れてからザニオーロは“良い意味”で違う選手へと変貌を遂げている。その1年半の歩みと彼の変化を振り返っていこう。

トルコで“ロマン”を再現も…恩人の電話1本でイングランドへ

 ザニオーロのガラタサライが発表される2日前にトルコはマグニチュード7.8の大地震に見舞われていた。その後も余震が相次ぎ、人々の安全が担保できないことからスュペル・リグも1カ月ほどの中断を余儀なくされ、新天地でのデビューは3月へとずれ込んだ。

 まずは当時のガラタサライの状況を振り返る。

 2022-23シーズンのトルコの強豪は、若手路線へと舵を切ってボトムハームに沈んだ2021-22シーズンの反省を受けてマウロ・イカルディやドリース・メルテンス、ルーカス・トレイラら名前が通った即戦力を多く獲得。第12節からはクラブ記録とリーグ記録を更新する14連勝を達成するなど、破竹の勢いで勝ち点を積み重ねていた。

 このことからもわかるようにザニオーロが加入する以前からチームは完成されていた。そのため彼には不動のスタメンというよりも、リーグ優勝に向けての最後の起爆剤としての活躍が期待されていた。

 ザニオーロはこの期待に応えるように、試合に出れば求められる役割を忠実にこなした。デビュー戦となったカスンパシャ戦で、途中出場からいきなり決勝ゴールを決めると、リーグ優勝がかかった第37節、2位フェネルバフチェとのダービーで役者の違いを見せつける。

 ガラタサライに加入してから二度目の先発出場となった大一番で、決勝点となる先制ゴールと優勝を確実なものにする3点目を叩き込んだのだ。

 特に印象的だったのが79分に決めたダメ押しの一撃である。右の大外のレーンから得意のドリブルでカットインすると、ボックス手前から左足をコンパクトに振り抜き、相手GKが触れない際どいコースに強烈なミドルシュートを沈めた。

 何もないところから個人で状況を打開して試合を決める。この一連のプレーこそ、デビュー当時に多くの人々がザニオーロに感じた“ロマン”を体現するものだった。

 ガラタサライの2022-23シーズンのリーグ優勝に貢献した彼は、続く2023-24シーズンではCL出場をかけたプレーオフに向けて準備を進めていた。

 しかし、“1本の電話“がガラタサライでCL出場を目指していたその方針を変える。……

残り:3,817文字/全文:6,036文字 この記事の続きは
footballista MEMBERSHIP
に会員登録すると
お読みいただけます

Profile

安 洋一郎

1998年生まれ、東京都出身。高校2年生の頃から『MILKサッカーアカデミー』の佐藤祐一が運営する『株式会社Lifepicture』で、サッカーのデータ分析や記事制作に従事。大学卒業と同時に独立してフリーランスのライターとして活動する。中学生の頃よりアストン・ヴィラを応援しており、クラブ公式サポーターズクラブ『AVFC Japan』を複数名で運営。プレミアリーグからEFLまでイングランドのフットボールを幅広く追っている。

関連記事

RANKING

関連記事