プレミアリーグ第29節延期分の“ビッグロンドンダービー”で、優勝を争うアーセナルに5-0の大敗を喫した9位チェルシー。逆転での欧州カップ戦出場権獲得を目指す中で“まさか”の結果に終わったが、体調不良で欠場したコール・パーマーの不在が浮かび上がったのは“やはり”の影響だった。リーグ得点ランキングで首位に立つ希望の星が体現している自由と責任を、FAカップ準決勝の古巣マンチェスター・シティ戦と前後のリーグ戦2試合を現地取材した山中忍氏が綴る。
今季のチェルシーに、コール・パーマーが加入していなかったら? 答えは「悲惨」の一言だ。
実際のプレミアリーグ順位は、32試合を消化した時点で勝ち点「47」の9位。得失点差は、8位ウェストハム(-9)と7位マンチェスター・ユナイテッド(-1)よりも優位な「4」。しかし、パーマーの20ゴール・9アシストが直接的にもたらした計20ポイントを引き去ると、勝ち点「27」の16位へと降下する。得失点差も「-25」となり、降格圏すれすれの17位にいるノッティンガム・フォレスト(-18)を下回る数字に。残留争いに巻き込まれる不安を抱えながらの終盤戦となっていた。
2月後半に閉幕したリーグカップでも、コールは全6試合に先発して2ゴール2アシストと決勝進出に貢献した。リバプールに敗れた決勝(0-1)でも、チェルシーが先制に迫った後半と失速した延長戦の双方で、両軍を通じて最も相手守備陣を脅かす存在だったと言える。
古巣シティ相手に生みかけた2度、3度の「違い」
移籍1年目で21歳の攻撃的MFに対する依存度の高さは、再びウェンブリースタジアムでの惜敗(0-1)に終わった、FAカップ準決勝でも明らかだった。
4月20日に行われた準決勝は、巷でマンチェスター・シティと“コール・パーマー・チーム”の対決と言われた。これは、シティを率いるペップ・グアルディオラが、チェルシー新監督のマウリシオ・ポチェッティーノが指揮を執っていた当時のトッテナムを、一大得点源だったハリー・ケイン(現バイエルン)のチームと呼んだ過去にちなんだジョーク。だがチェルシーにとっては、限りなく事実に近い呼び名だった。
残念ながら、7歳でのアカデミー入りから13年間を過ごした古巣を相手に、パーマーが出色の「違い」を生むには至らなかった。だが2度、3度と、生みかけてはいた。……
Profile
山中 忍
1966年生まれ。青山学院大学卒。90年代からの西ロンドンが人生で最も長い定住の地。地元クラブのチェルシーをはじめ、イングランドのサッカー界を舞台に執筆・翻訳・通訳に勤しむ。著書に『勝ち続ける男 モウリーニョ』、訳書に『夢と失望のスリー・ライオンズ』『ペップ・シティ』『バルサ・コンプレックス』など。英国「スポーツ記者協会」及び「フットボールライター協会」会員。