2月28日に国立競技場で行われたアジア最終予選の第2レグで北朝鮮との死闘を2-1(2戦合計2-1)で制し、2大会連続となるオリンピック出場を決めた“なでしこジャパン”。パリへの切符が懸かった大一番で1点差を死守しなければならない89分にピッチへ立ち、猛攻を跳ね返したのは第1レグの先発にも抜擢された当時高校3年生のDF古賀塔子だった。
昨年7月には女子W杯にトレーニングパートナーとして帯同、9月にはアジア競技大会優勝を経験、今年1月にはフェイエノールトへ入団……。高校最後の1年で世界を飛び回った18歳に急成長を振り返ってもらうとともに、4月6日に開幕するシービリーブスカップ、そしてメンバー入りを目指すパリオリンピックへの意気込みを語ってもらった。
オランダにも春が来た。高校の卒業式に出席することなく、同級生たちよりひと足早く古賀塔子(18歳)は社会(=世界)の荒波に揉まれていた。
なんと充実した高校最後の1年間だったのだろう。2023年夏、なでしこジャパンはオーストラリア&ニュージーランドで開催されたW杯に出場。そのトレーニングパートナーとして古賀はJFAアカデミーの同期、谷川萌々子(現ローゼンゴード)とともにチームに帯同した。
9月には日本女子B代表の一員として、アジア競技大会(中国・杭州)の優勝に貢献し、「まるで冨安健洋(アーセナル)のようだ」「熊谷紗希(ローマ)の後継者候補だ」「憧れの選手はフィルジル・ファン・ダイク(リバプール)らしい」と世間の注目を集めた。
11月、なでしこジャパンのブラジル遠征で2キャップを記録。年が明けるとJFAアカデミー福島(活動は静岡)からフェイエノールトに移籍し、早くもレギュラーの座を射止めている。2月にはサウジアラビアで開催された北朝鮮との第1レグでは先発に抜擢された。第2レグではクローザー役をしっかり果たし、パリ五輪出場決定の瞬間を新国立競技場のピッチの上で迎えた。
日本(なでしこジャパン&JFAアカデミー)とオランダ(フェイエノールト)という2つのホームを拠点に、オセアニア、東アジア、南米、中近東を駆け巡った1年間。この旅路は古賀の成長物語だ。本職はCB。しかし、五輪アジア予選のひりひりするような戦いで、見事に左SBのタスクを成し遂げた。そして今、古賀はフェイエノールトでボランチとして新境地を拓いている。
「CBに戻った時」を見据えて。フェイエで拓く新しい世界
――フェイエノールト移籍のキッカケを教えて下さい。
「2022年、インドで行われたU-17W杯で、フェイエノールトが私のプレーを見てくれたんです。高2の冬に練習参加しました。オランダ人は身体能力が高いというイメージがあったので、そこでプレーしたいと思いました」
――それはなぜ?
「U-17W杯でスペインに負けました。彼女たちはうまいしフィジカルも強かったので、『もっとフィジカルの高い相手と練習からやりたい』と思いました。それでフェイエノールトでプレーすることに決めました」
――その願いは叶えられましたか?
「はい。やっぱり練習から強度が高く、しかも結構足を削ってくる選手もいます」
――ムカッとしたり?
「いや、そんなあ(笑)。それを求めてきたので」
――フェイエノールト女子チームは2021年スタートの新しいチーム。そういうことに対する不安とかは?
「高校を卒業してすぐ海外へ行くことに、ちょっと不安もありましたが、若いうちにヨーロッパでプレーした方がW杯で戦えるという思いで入ったので、新しいチームということへの不安はありませんでした。フェイエノールはジムも整っており、環境はとてもいいです。クラブが用意してくれた家は、スタジアム、練習場に近くて、男子の試合をいつでも見ることができます」
――(男子チームの本拠)デ・カイプ(スタディオン・フェイエノールトの愛称)の試合は、どこで見てるんですか?
「コーナーフラックの斜め上あたりの2階席です。印象に残っている試合は、高2の練習参加の時に見たフェイエノールト対アヤックス。フェイエノールトが勝ったんですが、ホームのサポーターしかいなくって『めっちゃホーム!!』って感じでした。今季の最終戦(5月11日、対ユトレヒト)は、私たちもデ・カイプで試合することが決まりました」
――古賀選手が加入してしばらく負けが続き、チームの調子が上がりませんでした。古賀選手自身はどうでしたか?
「日本のサッカーと全然違うので慣れるまで結構時間かかりました。縦に早いサッカーで、攻守の切り替えが激しく、強度も高いです」
――日本のメディアでは古賀選手のことを「熊谷選手の後継者」「冨安っぽい」「憧れの選手はファン・ダイク」と書いてます。しかし、フェイエノールトではまさかのボランチです。
「正直に言ったら、CBをやりたい気持ちの方が大きいです。しかし自分のプレーの幅を広げるという点で今、ボランチをやっておけば、CBに戻った時にもっと余裕を持ってプレーできると思います」
――新しい世界(ボランチ)をやってみてどうですか?……
Profile
中田 徹
メキシコW杯のブラジル対フランスを超える試合を見たい、ボンボネーラの興奮を超える現場へ行きたい……。その気持ちが観戦、取材のモチベーション。どんな試合でも楽しそうにサッカーを見るオランダ人の姿に啓発され、中小クラブの取材にも力を注いでいる。