SPECIAL

「40歳は通過点」心・技・体でみる、矢野貴章が栃木SCでレギュラーを張り続ける必然

2024.04.05

4月5日、矢野貴章が40歳になった。40歳現在の彼がどういう状況にあるかご存知だろうか。2024シーズンの4月5日現在、J1に通算358試合出場、J2に通算218試合出場、海外で通算15試合出場、トータルで591試合出場。2003年のデビューから今季でプロキャリア22シーズン目を迎える元日本代表のFWの現在地を伝えたい。

 矢野貴章はJ2の栃木SCにおいて完全なる主力である。今季の開幕から全8試合中、6試合がスタメン出場。主力中の主力である。

 栃木SCでプレーするのは今季で5年目だが、毎シーズン、コンスタントに試合出場とゴールを重ねてきた。なぜこんなことが可能なのか。思いつく理由がたくさんある。

ケガをしない「体」

 結論から書けば、心(情熱)・技(戦術理解・遂行)・体(フィジカル)、チームにおける存在感、そのすべてでハイクオリティをキープしているから、ということになる。

 例えば、『体(フィジカル)』の現在地はこうだ。矢野と公私ともに繋がりが深い大島康樹が証言する。

 「今年からチームに専属のフィジカルコーチがついたので、全体練習後には若手が筋トレなどを受けているのですが、その隣で(矢野)貴章さんが若手と一緒に同じ筋トレをやっているんです。それもフルメニューで」

 今季から栃木SCの指揮官に就任した元日本代表、田中誠監督も矢野のトレーニングぶりに目を細める。

 「僕自身は36歳の時に引退しましたが、だんだんと若手と一緒にフルでトレーニングすること自体がきつくなってくるんです。普通はケガをして、戻って、またケガをして、という繰り返しになるのですが、貴章はケガをしないんです。もともと身体が強いというのはあると思います」

 今季も矢野は最前線に位置取り、相手CBに対して身体を張って、走って、を当たり前のように繰り返している。

 そんな矢野も昨季は近年では珍しくケガに泣かされるシーズンを送っていた。原因はキャンプ。いきなり6000メートルほどのランニングメニューをこなすことになり、翌日から離脱。そのコンディション不良を引きずった。去年の後悔を活かすべく、今季はプレシーズンからなだらかに調整を進めながら身体を作り上げ、今に至る。沖縄キャンプ中も矢野は、練習後には入念にストレッチを繰り返して毎日を終えていた。矢野は「この年になったらフィジカルの数値は落ちていくものだけど、その下降線をできるだけ緩やかにしたいし、なんなら右斜め上へ持っていきたい」と口にする。

ファーストDFという匠の「技」

 『技(戦術理解・遂行)』はさびつくものでもないだろうが、矢野が強みとするプレースタイルと栃木SCのスタイルがマッチしているという幸福な関係もプラスに働いている。

 栃木SCの攻撃はロングボールがメインなので前線で矢野が競ったり、背後へランニングしたりしながら起点を作ることが生命線になる。矢野は多少ラフなボールだろうとだいたい競り勝てるし、少なくとも大負けしない。

 一方、堅守を武器にする栃木SCにとって前線守備の精度は勝敗のカギを握るが、矢野のそれは非常に精密だ。プレスのスイッチを入れるタイミングや追い込み方、背後のパスコースの消し方などを熟知する。今季から栃木SCは2トップを採用しているが、矢野の相方となる奥田晃也は「貴章さんはファーストDFがうまいので、よく見ながら学んでいる」と語る。……

残り:2,843文字/全文:4,312文字 この記事の続きは
footballista MEMBERSHIP
に会員登録すると
お読みいただけます

TAG

栃木SC矢野貴章

Profile

鈴木 康浩

1978年、栃木県生まれ。ライター・編集者。サッカー書籍の構成・編集は30作以上。松田浩氏との共著に『サッカー守備戦術の教科書 超ゾーンディフェンス論』がある。普段は『EL GOLAZO』やWEBマガジン『栃木フットボールマガジン』で栃木SCの日々の記録に明け暮れる。YouTubeのJ論ライブ『J2バスターズ』にも出演中。

関連記事

RANKING

関連記事