ベガルタ仙台は2024シーズンを前に、U-15〜17日本代表を率いて国際大会を戦い抜き、多くの選手を鍛え上げてきた森山佳郎を新監督に迎えた。昨季16位という屈辱的な結果に終わったクラブは、今年もまた「J1復帰」を目標に掲げる。そのために何が必要か。常日頃から「選手に伝わる言葉じゃないと意味がない」と語ってきた指揮官は、シンプルでわかりやすい「必殺技」を選手たちに授け、無敗街道を歩んでいる。
森山仙台を象徴する1コマ
2月28日、ベガルタ仙台練習場でのこと。この日も強度の高い練習メニューが続いていた。締めくくりは、少しサイズを狭めたミニゲーム。形式は7分×3本。それぞれのセットで、エリアごとにボールタッチ数などのルールが決められていた。
そして、3本共通のルールもあった。
「今だ! そこでまたフルプレスだ! 全力プレスだ! フルパワーだ!」
ボールを失った側のチームに対して、自身も全力の声を出すスタッフがいる。さながら正義のヒーローに必殺技を繰り出すように呼びかける司令官の如し。この人こそ、2024シーズンに仙台の指揮を執る森山佳郎監督。そして、この「全力プレス」こそ、この日のミニゲーム3本共通のルールだった。
「だんだん試合をやっていくうちに『なあなあ』になっていくのではなく、『そこ(全力プレス)はやるよ』というメッセージを込めました。本当はトレーニングでもっと細かいこともやりたいですが、今は試合が重なって(練習時間が)足りないので、ゲームの中でちょっと意識して、と思います」
練習後、森山監督は指示の意図をそう明かす。最大出力の意識づけだ。当時は公式戦3試合が短い間隔で続いていたが、練習時間が足りなくなる時期にも指揮官が優先順位の第一に置いていたのが、この「全力プレス」だ。
最前線から高強度のプレッシャーをかけ、ボールを奪えばその勢いのまま攻め入る。仙台はこのスタイルで、J2開幕から第6節終了時点で2勝4分の無敗。まずまずのスタートを切っている。
現時点の仙台は、枯れ木になりかけていたところから再び瑞々しさを宿し始めている。
枯れ木への水、フィジカル特訓
近年の仙台は低迷が続き、毎年監督も代わる悪い流れに陥っていた。
特に昨季はJ2で16位という成績だけでなく、方向性も定まらず、躍動できていない試合内容自体が深刻な問題として残った。そこに、再建の期待をかけられて就任することになったのが森山監督だ。
サンフレッチェ広島ユースや年代別の日本代表で数々の実績を残した森山監督だが、Jクラブトップチームの指揮はこれが初めて。就任にあたり昨季の仙台の全公式戦をチェックし、様々なデータを研究。その上で、最初のステップで重視したのが体力作りだった。……
Profile
板垣晴朗
山形県山形市生まれ、宮城県仙台市育ちのみちのくひとりダービー。2004年よりベガルタ仙台を中心にフットボール取材を続け、オフの時期には大学院時代の研究で縁ができたドイツへ赴くことも。どこに旅をしてもスタジアムと喫茶店に入り浸る。著書にノンフィクションでは『在る光 3.11からのベガルタ仙台』など、雪後天 名義でのフィクションでは大衆娯楽小説『ラストプレー』(EL GOLAZO BOOKS)。フットボールにまつわる様々な文化を伝えること、そして小説の次回作が最近の野望。