3月10日に行われたプレミアリーグ第28節、リバプール対マンチェスター・シティ。長年にわたりしのぎを削ってきたクロップとグアルディオラの集大成となる一戦は、現代サッカーの最高峰を知る上で格好の教材と言えるだろう。1-1の引き分けで決着した頂上決戦をエリース東京監督の山口遼氏に分析してもらった。
前編では過密日程+負傷者続出で苦しい台所事情のリバプールが、この試合を含めてむしろパフォーマンスを上げてきている理由を考察する。
フットボールとはつくづく複雑系である。
クロップが今季限りでの監督退任を表明したことで、もはやプレミアリーグの象徴ともなったペップとクロップの対戦もこれが最後となる。どことなく哀愁が漂う雰囲気の中で行われた最終決戦と呼ぶに相応しいハイレベルな戦いを見た後、私が感じたのは冒頭の感想だった。
全体的にはとにかくリバプールの強さが目立った試合だった。
マンチェスター・シティは全体的にリバプールのプレッシング強度の影響かプレーの呼吸が合わず、いつもの精密機械のようなパスワークは息を潜め、リズムを掴めなかった。一方のリバプールは過密日程の影響で負傷者が続出し、決して万全のスカッドとは言い難いチーム状況にもかかわらず、カラバオカップの優勝を契機にチームとしての勢い、完成度がまた一段高まった感がある。アカデミー所属、あるいは若手選手をスタメンで多く起用しなければならない状況だが、チームとしても個人としても、それをハンディとも感じさせないほどのパフォーマンスを発揮していた。世界最高峰と断言して良いマンチェスター・シティ相手にこれだけ若いメンバー主体で試合を優勢に進めたのは天晴れという他ない。
とはいえ、この試合を批評しようとなると意外にも探りにくい試合に感じた。リバプールが全体で良さを発揮し、最終的には痛み分けのドローに終わったという結果や概要はわかっている。しかし「なぜそうなったのか?」と問われると、明確に「これ」という要因を挙げるのは難しい。遠藤航は会心のパフォーマンスを披露したものの、それだけが原因でこのような試合展開になったというほど単純な話ではないだろう。
例えば、シティは普段に比べて縦に速い展開でボールを手放してしまう展開が続いたが、それはなぜなのか。
リバプールは先にも述べたようにアカデミーのプレーヤーを多く使っているような状況にもかかわらず、なぜこれほどまでに高い機能性を発揮したのか。
それぞれのメンバーの選定や戦略、交代、そして戦略的意図はどのように噛み合い、影響しあったのか。
いくつかの要因をキーポイントとして挙げつつ、それらがどう絡み合ってこのような試合展開になったのかを探っていきたい。
リバプールの右肩上がりの3-2ビルドアップ
この試合、シティがボール保持の局面において精彩を欠いていたというのもあるが、それ以上にリバプールのボール保持の質が非常に高く、ゲーム支配においてシティに対して互角以上に立ち回っていた。興味深いのは、リバプールは明らかにシティのビルドアップのメカニズムやバリエーションを模倣し、自分たちのものにしているということだ。
この試合では右SBのブラッドリーが攻撃時に幅を取り、右インサイドハーフ(IH)のマカリステルがボランチに、右ウイングバック(WG)のエリオットが実質的な右IHとして振る舞う[3-2-5]を採用していた。シティは[4-1-4-1]でプレスをかけ、左WGのアルバレスが右のCBのクアンサーにプレスをかけるのだが、それによってできたホーランド―アルバレスのラインに対して遠藤航が、それによってできたデ・ブルイネ―ベルナルド間のラインに対してマカリステルが段差をつけてサポートすることで、上手くプレスラインを切って前進できる構造になっていた。
このように、非対称でワイドな3バックに対してGKとダブルボランチが段差をつけてサポートするような構造は、シティが昨季から行ってきたものとかなり近しく見える。……
Profile
山口 遼
1995年11月23日、茨城県つくば市出身。東京大学工学部化学システム工学科中退。鹿島アントラーズつくばJY、鹿島アントラーズユースを経て、東京大学ア式蹴球部へ。2020年シーズンから同部監督および東京ユナイテッドFCコーチを兼任。2022年シーズンはY.S.C.C.セカンド監督、2023年シーズンからはエリース東京FC監督を務める。twitter: @ryo14afd