日立台の右サイドに新たな才能が台頭しつつある。まだ1年の在籍期間が残っていた拓殖大学サッカー部を辞して、プロの世界へと飛び込んできた21歳。“32番”という大きな番号を背負った柏レイソルの右サイドバック・関根大輝は、ちばぎんカップから3試合続けてスタメンに抜擢されると、ダイナミックなプレーで攻守に躍動。その存在は多くのレイソルサポーターの知るところとなった。ただ、本人に満足するつもりなんて毛頭ない。なぜならこの男は『パリ五輪出場』という大きな覚悟を携えて、黄色いユニフォームに袖を通しているからだ。
ちばぎんカップで日立台デビュー。ルーキーが突き付けられた現在地
いつもスタンドを黄色く染め上げる日立台の住人たちも、きっと気付き始めている。この冬から自分たちの仲間に加わった長身の32番が、同じエンブレムを身に纏って右サイドを駆け上がる21歳が、世界へと届き得る圧倒的なポテンシャルを宿していることを。
柏レイソルの新・右サイドバック。関根大輝は自身のサッカーキャリアを懸けた勝負の“3+1”試合を、今まさに戦っている。
「まだスタジアムの雰囲気にも全然慣れていないので、今日もアップの時に凄く鳥肌が立ちました」。ルーキーの感慨が初々しい。2月25日。明治安田J1リーグ第1節。レイソルを率いる百戦錬磨の指揮官・井原正巳監督は、京都サンガF.C.をホームに迎えた開幕戦のスタメンリストに、今季から正式にチームの一員となった関根の名前を書き入れる。
その1週間前に行われた『ちばぎんカップ』でも先発で起用され、“日立台”とも呼ばれる三協フロンテア柏スタジアムでのデビューは飾っていたものの、試合は1-2で敗戦。89分までプレーした関根は、少なくない課題を抽出していたという。
「ちばぎんではあまり良さを出せなかったので、映像を見返したことで、自分の中で出た改善点や課題は修正しなくてはいけないなと。何回かサヴィオから展開のボールが来て、1対1になる場面がありましたけど、それこそ前にポジションを早く取りすぎてしまって、自分のスペースを空けてしまう場面があったので、特にポジショニングのことは考えていました」
脳裏に焼き付いていたのは2失点目のシーン。ビルドアップの流れの中で縦へと走り出した瞬間に、味方がボールロスト。そのまま自身の裏に空いた広大なスペースにスルーパスを送られ、懸命に戻ったものの失点は防げなかった。一瞬の判断ミスが命取りになるプロの厳しさを味わったからこそ、同じ轍を踏むわけにはいかない。何より11人しかいない開幕スタメンに選ばれたのだ。そのステージに立つことの叶わなかったチームメイトの想いも背負って、関根は緑の芝生へと走り出していく。
開幕戦で披露した高い修正力。同じ失敗は繰り返さない
「前半はあの雰囲気の中で緊張もあって、なかなかボールが足に付かないところもありましたけど、時間が経つにつれてだんだん良さは出せたのかなと思います」。開幕戦独特の緊張感に加え、降り続いた雨によるピッチコンディションもあって、比較的長いボールが飛び交う展開の中でも右サイドバックが披露する、中学と高校時代に身に着けた正確な技術にブレはない。
後半に入ると、レイソルは少しずつビルドアップの回数も増加。「練習でも井原さんやクリさん(栗澤僚一コーチ)からも、『前を向いたらどんどん前に付けていけ』と言われていましたし、あそこでボールが入ってくることはこのシステム上でも多くなってくるので、そういうところで質の高いプレーを見せるのが今の自分の課題という中で、ああいうプレーを出せたのは良かったと思います」という関根は、第一の選択肢を前方へ向けていく。
その積極性が決定機に結びついたのは、1点をリードした終盤の86分。マテウス・サヴィオからのサイドチェンジを受けた関根は右から中央を窺うと、斜めにグラウンダーのパスをグサリ。細谷真大のポストプレーから、山田雄士がペナルティエリア内で倒され、レイソルにPKが与えられる。
もちろん細谷へのパスも素晴らしかったのだが、着目すべきはその前のポジショニング。目の前には既に広大なスペースが空いていた中で、時間帯と点差を考慮した関根は右サイドへと張り出さず、中央へと絞る立ち位置を選択。サヴィオからのパスが確実に見込まれるタイミングで斜め前へと走り出し、展開されたボールを収め、PKへと繋がるパスを送り込んでいる。
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Profile
土屋 雅史
1979年8月18日生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社。学生時代からヘビーな視聴者だった「Foot!」ではAD、ディレクター、プロデューサーとすべてを経験。2021年からフリーランスとして活動中。昔は現場、TV中継含めて年間1000試合ぐらい見ていたこともありました。サッカー大好き!