いよいよ2月25日に開幕戦を迎える2024シーズン、J3優勝&J2昇格を目指す長野パルセイロ。始動した1月に注目を集めたのが、クラブ公式サイトに「2024シーズン、チームトレーニング初日の監督・選手コメント」として掲載された髙木理己監督の言葉「社会情緒的優位(性)」だ。質的優位性、位置的優位性、数的優位性に続く「4つ目の優位性」という考え方は、16人もの選手が新加入する中でチームビルディングにどのように役立っているのか。プレシーズンにも密着していた番記者・田中紘夢氏に探ってもらった。
1月11日。積雪が残る長野運動公園陸上競技場で、長野パルセイロは2024シーズンの始動を迎えた。トレーニングを終えたのち、髙木理己監督が囲み取材の場へ。「ミーティングでどんなことを共有したのか?」という問いに対し、あるキーワードを挙げた。
「質的優位性、位置的優位性、数的優位性という3つの優位性が叫ばれて、いろんなことを試行錯誤してきた。ただ、アルゼンチンがW杯で優勝したことを皮切りに、4つ目の『社会情緒的優位性』が表に出るようになった。数値化できない、ともに過ごした時間でのみ得られる阿吽の呼吸、我われの距離。もっと言えば、長野らしさ。長野のエンブレムを着けて練習している時間が、そのまま優位になるように――」
「社会情緒的優位性」――検索エンジンで調べると、footballistaの記事「社会情緒的優位性を重視。南米を再興させるリレーショナルプレー」がヒットする。サッカーライターの結城康平氏が『フットボリスタ第99号』に寄稿したものだ。髙木監督がこの言葉を知ったのも、同記事を読んだのがきっかけであり、「すごく腑に落ちた」と話す。
「お前が3回追ったら、俺も3回追う」関係性の伝え方として
“アルゼンチン代表はヨーロッパの価値観から離れることでカタールW杯で優勝することになる。メッシを中心としたチームは、その自由な連係で相手チームを翻弄した。彼らが重要視していたのはポジショナルプレーにおける「4つ目の優位性」と考えられていた「社会情緒的優位性」だ。”
メッシはもともと走行距離が少ないことで知られている。カタールW杯においては、最も歩いている選手だったようだ。それでも7試合7得点と活躍できたのは周囲を生かし、生かされたからこそ。ロドリゴ・デ・パウル、アレクシス・マカリステル、エンソ・フェルナンデス、フリアン・アルバレスら“働き蜂”に支えられながら、最終的に針を刺すのはメッシだった。チームとしてエースに依存するのではなく、共存して36年ぶりの優勝をつかんだ。
それをなんと表現するのか。阿吽の呼吸、絆、輪――。どれも正解だろうが、髙木監督の言葉を借りれば、どこか「汗臭く感じられる」部分もある。
「今の社会情勢を見ると、そういう言葉は煙たがられたり、暑がられたりして、表立って言えないこともあるんじゃないか。でも、すごく大事なことだから、どうやって伝えていけばいいのか」――指揮官はそう頭を巡らせていたようだ。……
Profile
田中 紘夢
東京都小平市出身。高校時代は開志学園JSC高(新潟)でプレー。大学時代はフリースタイルフットボールに明け暮れたほか、インターンとしてスポーツメディアの運営にも参画。卒業後はフリーのライターとして活動し、2021年からAC長野パルセイロの番記者を担当。長野県のアマチュアサッカーも広く追っている。