今年の1月3日、水戸ホーリーホックの西村卓朗GMが自身のnoteに近年の移籍市場の流れに痛感することを書き連ねていた。その内容は、現役の選手たちに警鐘を鳴らすものであり、その上で、Jクラブが生き抜くために必要だと考える施策の数々だった。
水戸の強化担当者として近年の移籍市場の流れを肌感覚で知り尽くす西村GMに、改めてnoteに書き連ねた内容やJクラブの強化策を中心に語ってもらった。
GPSの定量的な数値が重要視される時代
――西村GMがご自身のnoteにも書かれていましたが、獲得する選手のデータが詳細になっていて、自分たちが必要となっている選手が明確化していると思います。その中で重視される項目は? 天才系の選手よりもアスリート系の選手が望まれるようになっているのでしょうか?
「J1は毎試合トラッキングデータが出ています。そこで言うと、スプリントの本数もありますが、マックススピードがどれだけ出るかなども重視されているように感じます。走行距離、マックススピード、スプリントの数は高ければ高いほどいいとなっていますね」
――それによって「溢れる選手」が出ている?
「そうですね。水戸からレンタルで出すことを考えた選手について、交渉しているクラブの担当者からマックススピードやある試合のGPSの数字を聞かれて答えたところ、交渉が進まなかったケースもあります。プレーを見ることが定性的だとすると、定量的なところもかなり重要視されるようになっています。いい意味で厳しくなっている。選手はそこと向き合うべきだと思っています」
――クオリティーや経験と言った定量化されないものが評価されない世界になっている?
「一方で、いろんな角度(様々な方々)からの評価も聞くようになっています。たとえばですけど、チームが苦しい時にまとめる力があるとか、どんな時(出られないとき、ケガのとき)でも努力できるとか、関係者からの360度評価も重視していますよ。エージェントの評価だけでなく、前所属先の監督、コーチ、メディカルスタッフ、経験のある選手からの評価も大切にしています。私たちもそうですが、ないものを『ある』とは言えないんですよ。そこは信用につながりますから。だから、ストレートに聞いてみると、しっかりとした答えが返ってくるんです。私が『若い選手は経験のある選手の言うことに耳を傾けた方がいい』と書いたのはそこが理由です」
若い世代にはプロフェッショナルな職人気質が増えている
――若者の価値観の変化についても書かれていました。どういう変化があるのでしょうか?
「『プロセスエコノミー』という本に若者の価値の軸が変わってきていると書かれていました。私たちの時代は報酬や快楽とか、そういうことに動機づけられたところがあったと思うんですよ。でも、今の若者は人間関係とか、意味合いとかを大切にするようになっていて、たとえば企業選びする時にその企業が社会的にどんな活動をしているのかを重視するようになっているそうです。また、イマーシブルという没入体験というエンターテインメント界の言葉があるみたいですけど、没頭することも一つの価値になっている。そういうことを今の若い人たちが考えるようになってきた。確実に私たちの時代と変わってきている。だからこそ、組織としての風土が大事になってくるんです」
――以前は才能があれば多少許されていたことも、今は認められなくなっているということなんでしょうね。
「今、日本代表で活躍している選手の代表格は三笘選手だと思うんですけど、三笘選手や南野拓実選手らの自分を律する意識やサッカーに没頭する姿勢は本当にすごいですよね。いい意味でオタク気質というか。日本代表のトッププレーヤーがかつての派手さや話題性という華やかなスターというのではなく、職人気質になってきている。いい意味でプロフェッショナルな意識を持った選手が増えている。その傾向がトレンドというより、本質に近づいてほしいと思っています」
――そういう変化がある中でチーム作りも変わってきているのでしょうか?……