アカデミーも含めたGKグループの成長プロジェクトが、サガン鳥栖の中で着々と動き出している。その“首謀者”はジルベルトGKダイレクターと室拓哉GKコーチ。前者がGK大国のイタリアで育んだ確かな哲学を、後者は吸収しながら自分の中に取り入れ、選手たちへフィードバックしていく。駅前不動産スタジアムのゴールを逞しく守るGKを育て続けていくために。今回はおなじみの杉山文宣が2人の言葉に耳を傾けながら、そのプロジェクトの詳細を明らかにしていく。
サガン鳥栖が変えつつあるGKグループに対するスタンス
「ジルさん」という呼び名のイタリア人が鳥栖にはいる。その正体はバッレージ・ジルベルトGKダイレクター。2017年のシーズン途中から19年までトップチームのGKコーチを務め、権田修一や高丘陽平といった選手たちを指導。そして、昨季からGKダイレクターという立場で、再び鳥栖へと帰ってきた。PDPと呼ばれるポジション別の練習は現在の鳥栖の特長であり、コーチ陣の腕の見せどころとなっているが、GKは特に専門性の高いポジションでもある。室拓哉GKコーチとジルベルトGKダイレクター、そして、5人のGKたちが日々の練習で見せている活気と熱量はその取り組みの濃密さを感じさせる。
「オファーを受けたことはもちろん、とてもうれしかったし、すごく感謝しています。コーチをやっていたときのことをしっかり評価してもらったんだなと思いました」と“ジルさん”の肩書は以前のGKコーチから今回はGKダイレクターへと変わった。その役割はトップチームからアカデミーまで鳥栖のすべてのカテゴリーでGKへの指導、自身のGK哲学を落とし込んでいくというものだった。トップチームでは室GKコーチと2人体制で5人のGKたちに自身の経験を伝え、各年代のアカデミーに向けてもそのノウハウを下部組織のGKコーチ、GKの選手たちに落とし込んでいる。
「下の育成カテゴリーのGKコーチたちが毎週、平日のトレーニングだったら毎日のように来てくれる。そういった指導者たちが育成の選手たちに落とし込んでくれて、その子たちが5年後くらいにどうなっているか。それがGKグループの目標。あと5~6年くらいしてアカデミーの子たちがトップに来て勝負できるのが一番の理想。そのためにジルさんに一番上に立ってもらい、若い指導者たちに学んでもらってチャレンジしているという状況です」
鳥栖というクラブ全体でのいまのGKへの指導体制についてそう話すのは室GKコーチだ。ジルベルトGKダイレクターがトップチームのコーチを務めていた時期、U-18のGKコーチを務めていた室GKコーチはサポートコーチという立場でトップチームのGK練習に参加していた。そこで培ったものを自らがU-18のGKの選手たちに伝えてきたという経験がある。
極めて専門性の高いGKというポジションにおいて、より若い年代からGKとしての密度の濃い技術を教えることの重要性について、室GKコーチは「自分たちのやり方が正しいというわけではなくてやり方はいろいろある」と前置きしてこう語る。……
Profile
杉山 文宣
福岡県生まれ。大学卒業後、フリーランスとしての活動を開始。2008年からサッカー専門新聞『EL GOLAZO』でジェフ千葉、ジュビロ磐田、栃木SC、横浜FC、アビスパ福岡の担当を歴任し、現在はサガン鳥栖とV・ファーレン長崎を担当。Jリーグを中心に取材活動を行っている。