TACTICAL FRONTIER
サッカー戦術の最前線は近年急激なスピードで進化している。インターネットの発達で国境を越えた情報にアクセスできるようになり、指導者のキャリア形成や目指すサッカースタイルに明らかな変化が生まれた。国籍・プロアマ問わず最先端の理論が共有されるボーダーレス化の先に待つのは、どんな未来なのか?すでに世界各国で起こり始めている“戦術革命”にフォーカスし、複雑化した現代サッカーの新しい楽しみ方を提案したい。
※『フットボリスタ第100号』より掲載。
北欧では、アカデミックな知見とフットボールの現場を融合させるアプローチが進んでいる。例えばスウェーデンのAIKで活躍するマーク・オサリバンはその1人だ。彼は論文を執筆している研究者としての一面を兼ね備えつつ、アカデミーの選手たちにハイレベルな教育を提供している。その能力は欧州全土で高く評価されており、カナダサッカー協会もコンサルタントとして彼を招き、育成理論の専門家としてコーチングライセンスやトレーニングメソッドの策定に関わっている。
AIKでその男を支える若き指導者がジェームズ・ボーンだ。ニュージーランド出身の彼は、フットサルをプレーしていた頃には代表チームで50試合以上に出場している。選手としての実力に加え、驚くべきは学力だ。クイーンズランド大学院時代にはその能力を認められ、オーストラリアサッカー協会との共同研究にも参加しており、「創造的な選手の育成:心理的な観点」という論文を執筆した。
オサリバンとボーンは同じAIKというクラブで働きながら、共同研究でも前衛的な視点を提供する。ボーンが好むのは、フットボールというスポーツを社会文化生態学(socio-cultural ecology)として理解する方法だ。これはエコロジカル・アプローチとも関連している。なぜなら、彼はフットボール選手のプレースタイルが社会学的な制約から影響を受けると考えているからだ。彼らのトレーニング思想と学術研究は、これまで考えられてきた「学習の概念」を大きく揺るがそうとしている。
学習者は「ウェイファインダー」
2020年、エコロジカル・アプローチの研究者として知られるキース・デイビッズを中心とした研究チームが論文で紹介した概念が「ウェイファインディング(Wayfinding)」だ。……
Profile
結城 康平
1990年生まれ、宮崎県出身。ライターとして複数の媒体に記事を寄稿しつつ、サッカー観戦を面白くするためのアイディアを練りながら日々を過ごしている。好きなバンドは、エジンバラ出身のBlue Rose Code。