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「アフリカ勢は足が速い」は本当?進化したFIFAデータが示すU-17&U-20W杯のフィジカル傾向

2024.01.29

2022年カタールW杯では過去記事「ポイントは「動き」の数値化。FIFAが発表したW杯新データの見方を解説!」で取り上げた通り、多くの新データが公開された。このFIFAの取り組みは現在も続いており、2023年のU-17W杯、U-20W杯、女子W杯、クラブW杯でも同様のレポートが公開されている。これまでFIFAのWEBサイトでは男子A代表のW杯のみ多くのデータが公開され他の大会は少なかったが、22年W杯以降は大会ごとにほぼ一定になったと言える。今回は男子のU-17W杯、U-20W杯を対象に年齢制限のある大会でのデータ傾向の分析、そしてその中での日本代表の立ち位置を振り返りたい。

筆者注:この記事にて掲載しているデータはすべてFIFA公式のデータを引用。FIFA側が後日修正する場合があるため、現時点で公開されているデータと一致するとは限らない。また、U-17W杯のウズベキスタンvsカナダはレポートにアクセスできないため除外。U-17、U-20W杯双方とも、グループステージで大差となる試合があったため試合単位の数値は中央値を利用。レポートはフルマッチの数値のため延長戦となった試合は除外。フィジカルデータについては自チーム、相手チームに退場者が出た試合も除外する。

A代表、U-17、U-20の3大会で傾向を比較

 「走行距離」はすでに一般的なデータになった感があるが、U-17W杯、U-20W杯で全試合の記録が公開されたのは初めてとなる。「走行距離」として紹介されるデータは実際には総移動距離であり歩いた距離も含まれているが、FIFAは時速の範囲別に5段階で距離を掲載しているため、実際に走行した距離も把握可能だ。90分で終わった試合を対象に数値を見ると、総距離ではU-20W杯>A代表のW杯>U-17W杯の順となったが、日本サッカー界がハイインテンシティとして定義している「20km/h以上」の数値ではA代表>U-20>U-17となった。

 サッカーは陸上競技ではないため、多く走るかどうかは試合内容や試合の環境にも大きく左右される。今大会でいうとインドネシアで開催されたU-17W杯は蒸し暑い中で行われ、U-20W杯は秋から冬に移る南半球のアルゼンチンで開催されたので比較的動きやすい環境だった。それらを踏まえると1大会のデータだけでは世代別の特徴を明言するには不足している。

 インプレーの時間がどれくらいあったかも全体の傾向を探る前提として把握したいのだが、試合時間の改革を行ったにもかかわらずFIFAはインプレーの時間を公開していない。よってセットプレーの数からある程度近い値を推測することにしよう。

 アウトプレーの数には掲載しているセットプレー以外にゴール数(キックオフの代用データとして)、PKも含めている。本来はドロップボールの数もアウトプレーが存在した証明となるが、こちらの数は掲載されていないため含んでいない。そのアウトプレーの数は少ない順にA代表<U-17<U-20となった。

 こちらのデータは1チーム単位の試合データの中央値を取っているため、1試合の両チームを合わせれば約100回アウトプレーのトリガーがあるということになる。カタールW杯以降、大胆なアディショナルタイムの長さが話題となったが、視聴した試合の中での印象としてはA代表の大会よりU-17、U-20は抑え気味に見えたので、おそらくA代表のW杯のインプレー時間が一番長いのではないだろうか。U-20W杯についてはスタジアムの芝にいくつか問題があった。それに加えて南米のスタジアムは芝が長かったり、長さが場所によってバラバラだったりするため、ボールコントロールが難しい面がある。U-20W杯のスローインが多くなったのはこういった影響もあるかもしれない。

U-17では確かにアフリカ勢が圧倒しているが…

 育成年代で個人的に見たかったデータの1つがスピードだ。

 国際大会のメディアコンテンツに触れると「アフリカ勢はスピードがある」という紹介は必ず見かけると言っていいが、実際どれくらい差分があるのか興味があった。各代表チームが属する連盟別に選手のトップスピードの中央値とトップスピードが「32km/h以上」だった選手の比率をまとめた(全選手各試合のトップスピードの分布を見ると「31km/h」台が頂点となったため「32km/h」を指定)。

 上図表のサマリーを見ると、U-17W杯におけるアフリカ勢のデータは他の連盟を大きく上回っているが、U-20W杯では南米勢が上回り、A代表ではアフリカ勢が最も高い値ではあるが、他の連盟も近い数値を残している。あくまで直近の大会だけで言えばU-17世代では圧倒しているものの、以降は近い数値は出せると言えるだろう。

 とはいえ、サッカーはスピード勝負の陸上競技ではないのでトップスピードのデータは試合展開にも左右される。加えて、対峙した選手の感想として見かける「急加速」や「球際で足が伸びてくる」といった要素はこのデータでは見られないため、あくまで参考の1つとして頭の中に入れておきたい。

 ちなみに、大会全体および日本代表のトップスピードの上位選手は下表の通りだ。

 サイドの選手が記録しやすいが、近年は速い選手を中央最前線に置くケースが増え、ラインが高いチームはCBもスピードが要求される。また、ペナルティエリアに選手が密集するようなセットプレー後のカウンター対応でトップスピードを記録するケースも少なくない。トップスピードのランキングはたまにメディアでも取り上げられるが、先に述べた通り試合展開やチームのスタイル、選手の役割に影響されるため、「足の速さランキング」とは意味が異なる点は覚えておきたい。

走る方が勝つのか?――フィジカルデータと勝敗の関係

 「相手より走れ」といった論調を今でも見かけるが、実際にはどうだろうか?……

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Profile

八反地 勇

1981年、愛媛県生まれ。音楽で食べていくために上京するもサッカーに魅入られ、サッカーのデータ入力、速報配信運用業務を経て、現在はフリーランスにてサッカーのデータ分析向けの設計、分析記事の執筆、ウェブフロントエンジニアなどを担当。サッカー観戦は1チームに絞らず、広く浅く見るタイプ。

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