「No Fear Football」は83日で幻に…現地サポーターと読むバーミンガムのルーニー“監督”解任劇
1月2日、バーミンガム・シティはウェイン・ルーニー監督の更迭を発表した。昨年10月の就任当初こそ昇格プレーオフ出場圏内の6位に浮上していたチームは20位にまで後退。83日の在任期間での15試合すべてを現地で見届けたバーミンガムサポーターのEFLから見るフットボール氏が、前指揮官の手腕と責任を厳しく問う。
2024年1月1日のエランド・ロード。宿敵マンチェスター・ユナイテッドのレジェンドでもある憎き監督の下で、開始1分からスコアレスドローを狙う戦術でチャンピオンシップ第26節に臨んだ対戦相手が哀れにも失点を重ねるその姿に、リーズ・ユナイテッドサポーターの新年の祝賀は絶頂の時を迎えていた。
「明日の朝には解任だ!」
「ウェイン・ルーニー、こいつのせいでお前らは降格だ」
「奴はただの太った○○!」
そして敵地に乗り込んだバーミンガム・シティの2000人にも上ろうかというサポーターは、愛する自軍の監督に対する大声量での罵詈雑言に対して、通常のそれとは違う反応を示した。「反発」でもなければ「無視」ですらない。彼らの答えは「賛同」だった。
就任15試合で2勝4分9敗。同期間中に稼いだ勝ち点10はリーグ最下位だ。ポイント差がほぼなかったとはいえ、一応は昇格プレーオフ出場圏内の6位にいたチームが今や20位。そしてあまつさえ額面の結果以上に、パフォーマンスにまったくと言っていいほど良化の兆しが見られなかったことを、元日のアウェイゲームに駆けつけるほどのコアサポーターたちは誰よりもよく知っていた。
その翌日、ウェイン・ルーニーがバーミンガム・シティの監督として過ごした83日間が終わった。
定まらない戦術に匹敵する他責コメントの豊富さ
「ルーニーは『優れた監督』なのか?」――2024年1月時点では残念ながら、この質問に対する答えは明らかだ。
38歳にして監督としては3クラブ目、昨年10月の記事でも記したように、このバーミンガムでのチャンスは彼にとって初となる「言い訳の利かない」仕事だった。合計で21もの勝ち点剥奪を受けながら奇跡の残留回避へと奮闘したダービー時代。GM(ゼネラルマネージャー)不在の状況でも懸命にリーダーシップを発揮したDCユナイテッド時代。両クラブでの決して輝かしいとはいえない成績から人々の関心を遠ざけたのは、「厳しい環境を考えればよくやった」という同情的な評価でしかない。
だからこそ「クラブにとっての重要な転換点」、そしてのちにミーム化する「No Fear Football」といった活気ある言葉が躍った声明に迎えられ、ルーニーは監督としての次なる重要なステップを刻むはずだった。彼を肝煎りで迎えたのは長年の盟友であるCEOのギャリー・クック。革新的で野心あふれる新オーナーグループKnightheadの存在。指導者としての真の実力を発揮する上では申し分のない舞台設定だ。「彼ら(オーナー)の野望を実現できるよう注力する」――彼はそう力強く宣言し、バーミンガムの地に降り立った。
歯車は、最初から狂い始めていた。
かつてのチームメイト、マイクル・キャリックが率いるミドルズブラ戦から始まった最初の5試合での惨憺たるパフォーマンスは、青天の霹靂とも言うべきルーニーの就任を必死に正当化しようとしていたファンの心をいたずらに揺さぶった。初戦で見せたボール保持時に[2-3-5]を敷く大胆な姿は翌節のハル戦で早くも消え、その試合後には「選手に今トライしている新戦術への意見を求めた」とさらなる方向転換を示唆。実際に次のサウサンプトン戦では空中戦を試みる割合が目に見えて増し、次の2試合では積極果敢なハイプレス、つまり前体制時に近い戦術への回帰を遂げることになった。
私が見た限りでは、就任8試合目のロザラム戦までに(この間1勝1分6敗)細かく見て6通りの基本戦術が入れ代わり立ち代わりで採用されていた。さらに試合後に出てくる言い訳もそれに匹敵するほどのバリエーションがあり、フィットネスレベルや異なる戦術への適応の難しさ、自信のなさ、集中力のなさ、何しろ枚挙にいとまがないほどの理由が挙げられた。1つだけ一貫していたのは、少なくとも公には自身に非を求めるコメントを一切出さなかったことだ。
この姿勢は徹底した寄り添い型のマンマネージメントとメディア対応で選手・ファンの双方から高い人気を誇った前任者、ジョン・ユースティスとは正反対のアプローチだった。もっと言えば、選手兼任の暫定時代から苦楽をともにしてきた若手主体のチームに対して、監督ながら同じ目線を保って苦しい状況を乗り越えようとしていたダービー時代のルーニー自身とも大きく異なっていた。それはまるで才能に恵まれながらもスキャンダラスな話題も多い、彼の選手時代からの賛否両論たるパブリックイメージに自ら合致しに行っているかのような、傍目には不可解極まりないものだった。
時に「こんな出来のままではこのクラブにいられなくなる」と言われ、時に「前半でスタメン全員を交代させたかった」と言われる。立ち返るべき哲学や原則の存在も感じられない。そんなメンタル面・戦術面双方での絶え間ない不安定さに終始晒され続ければ、チームのパフォーマンスがどうなっていくかは目に見えている。ルーニーの指揮下で主要スタッツはほぼすべて前体制からの下降を示し、攻撃的なスタイルへの転向という監督交代の主目的を考えれば著しく滑稽なことに、ポゼッションや1試合平均パス数といった基本的な部分ですら前政権を上回ることはできなかった。
そしてルーニーが延々と訴え続けた時間と冬の補強の必要性も、同一リーグ内の他の新監督たちとの横並びの比較で考えれば、一片たりとも説得力を持たない。最下位に沈んでいたシェフィールド・ウェンズデイに革新的な変化をもたらし降格圏脱出まで勝ち点3に迫らせている34歳の青年監督ダニー・ルールをはじめとして、QPRのマルティ・シフエンテス、ブリストル・シティのリアム・マニング、(下記のポストの中にはいないが)ストークのスティーブン・シューマッカーやロザラムのリアム・リチャードソンといった直近で就任した面々まで含めて、今季のチャンピオンシップではほぼすべての新監督が比較的速やかに結果と内容をともに向上させることに成功している。それが今のイングランド2部で求められる監督の資質の水準だ。
3試合で9失点を喫した直後、目に見えて守備的な布陣で完封だけを狙いに行った2023年最終戦のブリストル・シティ戦。同じ狙いを持って5バックに移行した前述のリーズ戦。結果的にルーニーの去り際となった最後の2試合で、バーミンガムが記録した枠内シュート数はいずれもたったの1本だった。クックによって抽象的に描かれた「No Fear」の幻像は、ついに幻のままルーニーの背中を見送った。
「名選手名監督に非ず」をもてはやすのは短絡的
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Profile
EFLから見るフットボール
1996年生まれ。高校時代にEFL(英2、3、4部)についての発信活動を開始し、社会学的な視点やUnderlying Dataを用いた独自の角度を意識しながら、「世界最高の下部リーグ」と信じるEFLの幅広い魅力を伝えるべく執筆を行う。小学5年生からのバーミンガムファンで、2023-24シーズンには1年間現地に移住しカップ戦も含めた全試合観戦を達成し、クラブが選ぶ同季の年間最優秀サポーター賞を受賞した。X:@Japanesethe72