“異端の若手理論派”として「ファンクショナルプレー」、「関係的優位性」と「機能的優位性」など新しいサッカーの解釈を唱え、『モダンサッカー3.0』の著者でもあるペルージャのU-19監督兼メソッド責任者、アレッサンドロ・フォルミサーノが前任者のシーズン途中解任に伴い、ついにそのトップチームの指揮官へと内部昇格を果たした。現イタリアプロサッカー界において最年少となる33歳の新監督は、カルチョに新風を吹き込めるのか。セリエCを戦うクラブの現状と初陣に対する現地の反応を、前後編に分けて片野道郎氏が伝える。
『footballista』の読者にはもうおなじみ、『モダンサッカー3.0』の著者でペルージャU-19を率いていたアレッサンドロ・フォルミサーノがさる12月19日、セリエC(イタリア3部)で戦うトップチームの監督に内部昇格した。1990年11月10日生まれの33歳。セリエAからCまでのイタリアプロリーグを通して最年少監督の誕生である。
プロ選手経験をまったく持たず、地元ナポリのアマチュアクラブからスタートして下部リーグのプロクラブで育成コーチとしての実績を段階的に積み重ねながら、エコロジカル・アプローチの考え方に根ざした独自のトレーニング/コーチングメソッドを磨き上げてきたフォルミサーノにとって、このトップチーム監督就任はキャリアにおける最大の転換点と言えるだろう。
かつて中田も在籍。「世界の中心」だったペルージャの凋落
ペルージャといえば、日本の読者が一番最初に連想するのはやはり中田英寿という名前ではないだろうか。セリエAがまだ欧州最高峰のリーグだった1990年代末、当時21歳でまったく無名の存在だった中田が、デビュー戦でユベントス相手に2得点を決めたのを皮切りにイタリア中(それ以上に日本中)の注目を集める大旋風を巻き起こし、翌シーズン半ばに鳴り物入りでローマに移籍するまでの1年半、ペルージャは私たち日本のサッカーファンにとって文字通り「世界の中心」だった。それから20年あまりを経て、フォルミサーノをトップチーム監督に据えた現在のペルージャはどんなクラブなのだろうか。
中田を手放して以降のペルージャは、イタリアの多くのプロビンチャーレ(地方都市の中小クラブ)と同じように、時代の変化に適応できないまま苦難の道を歩むことになる。その後も4年ほどセリエAに留まったものの、2003-04に当時セリエBだったフィオレンティーナとの入れ替え戦に敗れて降格し、翌04-05末にはオーナーのガウッチ家が乱脈経営の末、クラブを支えられなくなって破産。それを受け地元実業家有志が設立した新運営会社の下でセリエC1(当時3部)から再出発したものの、5年後にはまたも破産して、アマチュアのセリエD(当時5部)からさらなる出直しを強いられることになった。
それでも、2012年にオーナー会長の座に就いたマッシミリアーノ・サントパードレの下でようやく経営が安定、2014-15にセリエBに昇格すると、それから昨シーズンまでの8年間は一度の降格(20-21)を除いてセリエB定着を果たしてきた。しかし再昇格2年目の昨シーズンは、二度の監督交代の末20チーム中18位に終わってセリエCに降格。1年でのB復帰を目標に掲げた今シーズンは、リーグでもトップ5に入る戦力を整え、監督にはユベントスU-23などセリエCのクラブを率いてそれなりの実績を残して来たフランチェスコ・バルディーニを迎えてここまで戦ってきた。
目先の結果に振り回されがち…典型的なワンマン経営が裏目に
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Profile
片野 道郎
1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。