第17節を終えて11勝5分1敗の2位。7季ぶりにトップ4入りを逃した昨季を経て、プレミアリーグ優勝戦線に帰ってきたリバプールが今節、勝ち点1差の首位アーセナルとアンフィールドで直接対決を迎える(日本時間12月23日26時30分キックオフ)。クロップ体制9年目の新たなチームを、東大ア式蹴球部テクニカルユニットの高口英成氏が分析した。
主力のケガが相次ぎ、昨シーズンは痛恨の結果に終わったものの、この夏の決断はシンプルだった。それまでの数シーズンを支えたメンバーが去り、その穴を埋めるべくMF陣の補強に注力。「世代交代」とも取れる形で、中盤の様相は大きく変化した。
マカリステルやソボスライらとともに遠藤航を獲得した今シーズンは、蓋を開けてみれば36得点15失点でアーセナルに次ぐ2位と、プレミアリーグで好発進を見せている。ここではそんなリバプールについて保持・非保持両面から詳しく見ていきたい。
相手の最終ラインにいかに認知負荷をかけるか
リバプールのボール保持は、数シーズン前から変わらずその大味なチャンスメイクが軸になっている。今シーズンここまでの得点数はリーグ戦17試合でマンチェスター・シティ(40)、アストンビラ(37)に次ぐ36ではあるものの、決定機逸の数値も高く、期待値を込みで考えれば他クラブと比較しても得点に直結するプレーを高い頻度で起こしている。
モダンサッカーの本流とも言えるポジショナルプレーが普及することによって、その効能や方法論が浸透し、今や欧州リーグを見渡しても自チームの持つ優位性(ボールを手にしている・スペースを手にしている)を簡単に捨てるチームは大きく減少した。その中でチームのスタイルを大きく決めているのは、どれくらい早く目的地に向かおうとするかの目的意識の部分だと言えそうである。
ゴールを最終目的地と設定した場合、そこまでの中間目的地はチームのフットボールの捉え方によって多様に設定ができる。その中で1列ずつラインを越えていくチームもあれば、直接ライン間へ向かおうとするチーム、はたまた一気に最終ラインの奥を取りに行こうとするチームなど、その攻撃姿勢は多岐にわたる。
ひるがえってリバプールを見れば、彼らの保持での目的意識は非常に明快かつ合理的で、そして大枠は数年前からほとんど変化がない。中間目的地はほとんど置かれず、目指すはピッチ上で一番価値の高い最終ラインの奥スペースである。言い方を変えれば、相手の最終ラインに対していかに認知的な負荷をかけるかどうかが、リバプールの崩しにおける主原則である。
リバプールのように目的地へと素早く向かいたいチームに共通するのは、その目的の達成のために一定の下ごしらえを済ませなくてはいけないところだろう。当然だがこちらの目指す目的地には相手が鎮座しており、相手をそのスペースから退かさない限りは目的地へボールを送り込むことができない。
そのためにはやや受動的な形であってもプレッシャーを引き受け、相手を動かす必要が出てくる。リバプールでは後ろ向きの選手にも強気にリリースするプレーや、受け手が前向きで受けようとしないプレーがよく見られるが、これも下ごしらえの一環だと捉えれば理解しやすい。前向きフリーのいわゆる「いい状態の」味方にボールを送ったところで、相手は引き出されるどころか、先んじて目的地を塞いでしまうからだ。目的地へ向かうスピードはリバプールよりもややゆっくりではあるが、こういった下ごしらえの考え方はブライトンの思想にも通ずるところがある。
そのためビルドアップの主原則は相手のラインをクリーンに越えることというよりもむしろ、単に「相手の相互作用を分断する」「相手をかき乱す」というふうに設定しているように映る。相手に向かって引きつけてから味方にスペースを配ってラインを越させるというプレーがあまり見られないのも納得である。
余談だが、目的地にゆっくり向かいたい場合は、逆説的に相手に目的地を閉じさせればいいだろう。そのためには常に目的地を向ける体の向き、すなわち前向きでボールを受ければいいことになる。
アーノルドの貢献とヌニェスの献身
実際のビルドアップではアリソンを積極的に参加させ、CBには時にペナルティエリア幅よりも広い距離感を保たせながら、何度でもGKを使ってやり直すことで相手を引き出す。アリソンやファン・ダイクなどは非常にパスレンジが広いため、スライドやラインコントロールを含めるとこのパス回しに付き合い続けるのは大変である。これにより相手の守備の相互作用が次第に分断されていき、ブロックが緩めば一気に崩しへと転じることができるという構造になっている。……
Profile
高口 英成
2002年生まれ。東京大学工学部所属。東京大学ア式蹴球部で2年テクニカルスタッフとして活動したのち、エリース東京のFCのテクニカルコーチに就任。ア式4年目はヘッドコーチも兼任していた。