0-3完敗は絶望か、希望か。浦和レッズがマンチェスターCに突きつけられた現実を分析する
11月19日にクラブW杯準決勝で実現した浦和レッズとマンチェスター・シティの一戦は、0-3で欧州王者に軍配が上がった。アジア王者が完敗とともに直面した現実を、『サッカーもっと知りたいシート』の講師・解説としても注目を集めたらいかーると氏が分析する。
異文化との衝突は非常に興味深くなることが多い。日本代表に選ばれれば、世界との遭遇は身近なものになるが、国内組が気軽に声をかけられる時代は終わりを告げている。Jクラブにとって国際経験を積める舞台はACLとクラブW杯が残された道だ。しかし、前者は同じアジア勢同士ということもあってそこまでの非日常感はない。一方で世界一を懸けた欧州の強豪クラブとの真剣勝負は、「そもそもサッカーの解釈が違うのではないか?」と疑うレベルのぶつかり合いとなる。この経験は稀有なものになることは間違いない。そして何よりも大切なことは、その後へどのように生かしていくかだ。
浦和を迷わせ続けたシティの[3-2]ではない[1-4]ビルドアップ
マンチェスター・シティのキックオフで始まったクラブW杯準決勝は、小泉佳穂対カイル・ウォーカーの空中戦で火ぶたが切って落とされた。試合が本来の姿になるまでにこれ以上の時間がかかることはなく、大方の予想通り欧州王者がボールを保持する形で展開されていく。
[4-3-3]を基本布陣とするシティのビルドアップ隊の基本配置は、左からナタン・アケ、マヌエル・アカンジ、ウォーカーを3バックとして、いわゆる偽CBのジョン・ストーンズとアンカーのロドリがその前に控える形。序盤こそ[3-2]感があったが、時間の経過とともにアケとウォーカーはCBというよりもSBと呼べるような役割に変化していく。1人残ったアカンジの孤独は、その周辺にある空白をエデルソン・モラエス、アケ、ウォーカー、ロドリ、ストーンズが臨機応変に使ってサポートする[1-4]で解消していった。
一方、[4-2-3-1]の1トップを担うホセ・カンテが前から追いかけ回したい意思を見せる浦和レッズは、さっそく敵陣からプレッシングを仕掛けていく。その様子を観察しているかのようなシティはボールを失いながらも、初手はGKから1列上がったエデルソンがアカンジと2CBを形成することで数的優位を生み出しながら、やる気満々のカンテとの駆け引きを行っていた。
シティからすると、ゾーンディフェンスで構えるアジア王者の隙間に選手を自然と配置できる形を狙ったのだろう。マテオ・コバチッチ、マテウス・ヌネスの両インサイドハーフにゼロトップのベルナルド・シルバが加わった3人で浦和のダブルボランチの岩尾憲、伊藤敦樹の周りをうろちょろするようになる。その後方のアレクサンダー・ショルツとマリウス・ホイブラーテンは、浦和が誇る北欧CBコンビ。ならば、その傍でボールを受けないことで彼らのプレー機会を削ればいい。そんな位置取りを見せるB.シルバも絡むシティのパス回しに怖さこそ覚えないものの、ボールを取り上げられる気配はどんどん失われていく流れとなっていった。トップ下の安居海渡が中盤をサポートすれば枚数の問題は解決されるが、とはいえカンテを見殺しにするわけにもいかないというジレンマまでもがシティの狙いだったに違いない。
3分過ぎになってようやくアジア王者のボール保持の出番が来たが、西川周作までプレッシングをかけてくるシティの前にたじたじな雰囲気。守備時に相手が3バック風味の時は、両サイドハーフの小泉と大久保智明を前に出すのがお馴染みで、特に小泉はボールホルダーにプレッシングをかけたい気満々のようだったが、3バックなのか、2バックなのか、特に左CBと左SBを行き来する曖昧なアケの立ち位置に対面の大久保が迷うことは必然だっただろう。5分にアカンジが繰り出したコバチッチの裏抜けにあわせるロングパスは、結果としてその出し手がフリーになりやすいことを物語っている場面だった。この試合で時間とスペースを与えられたアカンジは、焦ることなく味方に時間とスペースを淡々と配っていく。
この圧倒的な数的優位を担保に試合を進めるシティだが、GKへのバックパスのズレやエデルソンの判断のミスからあわやの場面を作られたりと、結果的にカンテの諦めずに追いかける姿勢が実りかける瞬間もあった。それでも怯むことはなく、シティは多くの時間帯でアカンジの1バックを継続。浦和も一度ボールを引っかけられれば自分たちの時間を増やそうと画策するが、裏に飛び出したりドリブルで仕掛けたりしても、フィジカルの差で無効化されてしまう。特に繰り返されていた突然の相手の背後を狙ったロングボールは、もう少し効果的になると目論んでいたのだろう。よって時間の経過とともに前から奪いにいく雰囲気が落ち着いていった浦和だが、この計算の狂いはなかなか大きかったのではないだろうか。
7分にロドリが放ったミドルシュートを筆頭に、相手陣内でボールを保持する場面が増えていったシティ。この時の配置の肝は、ロドリの横にアケとウォーカーがいることだろう。非常にファーストDFを決めにくい位置に立ち続ける彼らは厄介だ。ただし、浦和が自陣深くで組む[4-4-2]の守備ブロックはペナルティエリア幅を死守。外からの侵入は良い意味で捨てているようだった。よってシティは本命の中央ではなくサイドからゴールへの糸口を探る状況となる。
そして出番が増えていったのが左ウイングのジャック・グリーリッシュ。彼がボールを持った時にサポートするボールサイドのインサイドハーフを監視する浦和の選手は基本的にボランチ、間に合わない時はCBが対応していたが、ここにアケやウォーカー、さらにもう片方のインサイドハーフ、もしくはB.シルバが現れることでその守備網をこじ開けようとしていた。
もっと評価されるべき。明本が強いたフォデン↔B.シルバの修正
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らいかーると
昭和生まれ平成育ちの浦和出身。サッカー戦術分析ブログ『サッカーの面白い戦術分析を心がけます』の主宰で、そのユニークな語り口から指導者にもかかわらず『footballista』や『フットボール批評』など様々な媒体で記事を寄稿するようになった人気ブロガー。書くことは非常に勉強になるので、「他の監督やコーチも参加してくれないかな」と心のどこかで願っている。好きなバンドは、マンチェスター出身のNew Order。 著書に『アナリシス・アイ サッカーの面白い戦術分析の方法、教えます』(小学館)。