ペトロヴィッチ体制6年目のJ1リーグを勝ち点40の12位(10勝10分14敗・56得点61失点)で終えた北海道コンサドーレ札幌。その苦しい後半戦で宣言通り「チームの起爆剤」となったのが、今夏唯一の新戦力として移籍後9試合(全10試合)にフル出場したGK高木駿だ。「今でも時々、『フィールドプレーヤーになりたいなあ……』と思うことがあるんです」と言う34歳が、新天地で果たした大きな役割、そして自身が受けた新たな刺激とは? 地元で長年クラブを取材する斉藤宏則氏が当人に迫った。
2023年の札幌はJ1を12位でフィニッシュした。序盤戦は武器である攻撃的なスタイルが得点数と見事にリンク。加えてMF金子拓郎(7月下旬にディナモ・ザグレブへ期限付き移籍)の躍動や新加入MF浅野雄也の得点連発もチームに勢いを与え、3連勝を達成した時期も。ポゼッションと縦に速いプレーとをうまく使い分けたアタッキングは、リーグを席巻せんばかりの勢いを見せていた。
しかし、中盤戦から終盤戦にかけて一気に失速した。攻守ともにハイテンポな試合を重ねたことによる疲労蓄積や相手チームの対策などにより勝負どころで後手に回る試合が続き、後半戦に入ってからはほとんど勝てなくなった。ケガ人も重なり、最終的には前年に続きJ2降格ラインを気にしながらの戦いを強いられる。
そんな中でチームを持ちこたえさせた一人が、8月にJ2の大分トリニータから完全移籍で加わった34歳のベテランGK高木駿だった。札幌は夏の移籍ウインドーで5人の選手を放出しながらも、迎え入れたのはこの高木のみ。GK1枚のみという補強には心細さも感じさせたが、緻密かつ約束事の多い“ミシャ”ことミハイロ・ペトロヴィッチ監督のサッカーでは、過去を振り返ってもシーズン中のフィールドプレーヤー補強に即効性があったケースはあまりなく、そもそも補強前例自体が少ない。そうした意味でも、この夏の札幌のチームマネジメントは難しい状況にあった。選手を放出したタイミングでケガ人が発生するというアンラッキーもあり、選手数を十分に保てなかった部分は指摘されて然るべきではあるが、ことチームの順位を最下部まで下降させないというミッションの中では、経験が豊富で、足下でのプレーでゲームをコントロールできる高木が果たした役割は大きかった。
「自分が加わることで改善できる部分はありそうだな……」
高木の獲得は移籍期間終了ギリギリの8月16日に発表された。そして翌週のJ1第25節、川崎フロンターレ戦からさっそくスタメンでデビューを果たすのだが、その前節の京都サンガF.C.戦を0-3の大敗で落とすなど流れの悪かった8月のラストゲームを引き分け(2-2)に導いてみせた。さらに翌週のガンバ大阪戦では4-0の快勝に貢献。一時的ながらも、札幌は悪い流れをひとまず止めることができた。この後も難しい時期は訪れたが、シーズン全体を振り返るとここで続けて勝ち点を獲得できたことはあまりにも大きかった。
新天地でただちにスタメンに名を連ね、巧みなパスワークでチームを最後方から支えていくまでの過程を高木は次のように振り返る。
「札幌に移籍することが決まってから、直近の試合映像をいくつか見たんです。その時に『自分が加わることで改善できる部分はありそうだな……』とすぐに感じました」
具体的な箇所はビルドアップだ。……
Profile
斉藤 宏則
北海道札幌市在住。国内外問わず様々な場所でサッカーを注視するサッカーウォッチャー。Jリーグでは地元のコンサドーレ札幌を中心にスポーツ紙、一般紙、専門誌などに原稿を寄稿。