ドイツサッカー誌的フィールド
長く欧州サッカー界の先頭集団に身を置き続けてきたドイツ。その国内で注目のトピックスを、気鋭の現地ジャーナリストがピックアップし独自に背景や争点を論説する。今回は、代表の惨状とEUROに向けた反応。
※『フットボリスタ第99号』より掲載。
ドイツ代表の暗澹(あんたん)たる日々に思い出すのは、06年6月14日のドルトムントで始まり、それからドイツ全体を包んだあの歓喜である。当時『南ドイツ新聞』は、「エクスタシーに浸った雄叫びが、ドルトムントの観客席から雷雲のように立ち込めた」と記している。この自国開催のW杯は好天に恵まれ、強いだけでなくシンパシーを抱かせるチームとそして陽気な雰囲気の魔法のようなミックスにより「夏のメルヒェン」として記憶されている。
来夏にはEUROという大舞台が、再びドイツで開催される。新代表監督のナーゲルスマンは「夏のメルヒェン2.0になるのが理想」と言っているが、現状の国内の雰囲気はかなり冬に近い。ファンのアンケートでは、EUROを前に喜びを感じていると答えた人はわずか25%だった。これには多くの理由がある。
“不機嫌”な人々
06年と比較して、世界の様相はかなり変化した。イスラム原理主義によるテロ事件はあったが、世界情勢には総じてそこまでの脅威はなかった。『ツァイト』紙は「06年W杯後、サッカーにとっても国にとっても非常に素晴らしい年が続いた。私たち不機嫌なドイツ人が、互いにシンパシーを感じる国民になっていた」「今回も同じようなことが起きるのが望ましい。これはどうでもいい大会ではなく、自国開催のEUROなのだ」と説く。
しかし現時点で、来年夏の大会が18年前のような力強いお祭りになることは、あまり想像できない。「06年W杯の熱狂には、今のドイツは(まだ)ほど遠い」と『SID通信』に語ったEURO準備委員長のラームはこう続ける。……
Profile
ダニエル テーベライト
1971年生まれ。大学でドイツ文学とスポーツ報道を学び、10年前からサッカージャーナリストに。『フランクフルター・ルントシャウ』、『ベルリナ・ツァイトゥンク』、『シュピーゲル』などで主に執筆。視点はピッチ内に限らず、サッカーの文化的・社会的・経済的な背景にも及ぶ。サッカー界の影を見ながらも、このスポーツへの情熱は変わらない。