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社会情緒的優位性を重視。南米を再興させるリレーショナルプレー

2023.12.10

TACTICAL FRONTIER

サッカー戦術の最前線は近年急激なスピードで進化している。インターネットの発達で国境を越えた情報にアクセスできるようになり、指導者のキャリア形成や目指すサッカースタイルに明らかな変化が生まれた。国籍・プロアマ問わず最先端の理論が共有されるボーダーレス化の先に待つのは、どんな未来なのか? すでに世界各国で起こり始めている“戦術革命”にフォーカスし、複雑化した現代サッカーの新しい楽しみ方を提案したい。

※『フットボリスタ第99号』より掲載。

 欧州が支配してきた近年のフットボールは、ブラジルやアルゼンチンといった南米の強豪国にとっても苦難の歴史だった。

 特に自国開催のW杯でブラジル代表が大敗したミネイロンの惨劇は、1-7という衝撃的な結果によって人々の記憶に刻まれることになる。本拠地でドイツ代表に挑んだサッカー王国は、屈辱を味わった。実際に多くの選手がヨーロッパのトップクラブでプレーしていたこともあり、ブラジルやアルゼンチンにとって「ヨーロッパのスタイルを模倣すること」は難しくなかったはずだ。

 しかし、アルゼンチン代表はヨーロッパの価値観から離れることでカタールW杯で優勝することになる。メッシを中心としたチームは、その自由な連係で相手チームを翻弄した。彼らが重要視していたのはポジショナルプレーにおける「4つ目の優位性」と考えられていた「社会情緒的優位性」だ。今回は、ポジショナルプレーとリレーショナルプレーを繋ぐ糸となっているこの概念について考察していきたい。

カタールW杯準々決勝でPK戦の末にアルゼンチンがオランダを下した瞬間の1枚

4 つ目の優位性=「阿吽の呼吸」

 バルセロナのトレーニング史において欠かすことができない存在が、フランシスコ(パコ)・セイルーロだ。その彼は社会情緒的優位性について「チーム・ケミストリー」と表現している。これはチームの和であり、絆だ。ケミストリーという言葉にふさわしく、そこでは化学変化が発生する。水素と酸素が化合して水になるように、選手の組み合わせは1+1=2ではない。1+1が3 にも、4 にもなるのだ。選手同士の相互理解であり、コミュニケーション能力でもある。セイルーロはこれをトレーニングによって醸成することが可能だと考えていた。

 それゆえにバルセロナのトレーニングでは、社会情緒的な側面にも注目している。局面においてスペースを共有する味方選手を認知し、その動きを予測することで、スムーズな連係が可能になる。セイルーロの考えでは、相手チームよりもこの連係が優れていることが「優位性」になる。ポジショナルプレーでは、それぞれの優位性が注目されてきた。数的な優位性は、チームメイトの数が相手よりも特定のゾーンで多くなっていることだ。質的な優位性は、選手の質が相手を上回っていること。位置的な優位性は、相手よりも優れたポジションに立てていることを意味する。そして4つ目の社会情緒的優位性とは、相手チームよりも円滑にコミュニケーションし、チームメイトと連係することだ。……

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Profile

結城 康平

1990年生まれ、宮崎県出身。ライターとして複数の媒体に記事を寄稿しつつ、サッカー観戦を面白くするためのアイディアを練りながら日々を過ごしている。好きなバンドは、エジンバラ出身のBlue Rose Code。

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