ツエーゲン金沢で7年間指揮を執った柳下正明氏。予算の少ない地方クラブで試行錯誤しながら厳しいJ2の戦いを潜り抜けてきたが、今季は力及ばずJ3降格となり、自身も退任が決まった。柳下氏がこの7年間、時代が移り変わるなかで現場で感じてきたことは何か。前編と後編の2本にわけてお届けする。
上にいくためのことを要求し過ぎた
――2017年から7年間、金沢という同じチームで指揮を執ってきました。ひとつのチームで長く続ける難しさは感じていましたか。
「長いけど、選手が入れ替わっているよね。だからそんなに難しいとは思わなかった。少しずつ(サッカーも)変えようとしたし、いままでと同じことをやろうとしても人が変わるとできなかったりもするから。周りの人はわからないかもしれないけど、(チームの)中はどんどん変わっている。ずっと同じメンバーでやっているわけではないし、同じことをやろうとしていても違う選手が入ってくると、またちょっと変わるから。だから長くやること自体に難しさはない。
でも(金沢のような小さなクラブだと)いろんな選手が入ってくるという難しさがある。せっかく去年はこういうことができたのに、また新しくなったから『またこれをやらないといけないのか』とか、いままでいた選手も『またここからやるのか』って思う。そっちの難しさはある」
――逆に、長くひとつのクラブで監督をやったからこそ見えてきたものなどはありますか。監督ほど経験を積んでも新たな発見などはありましたか。
「1年、2年やればわかるよ。選手だって1ヶ月、2ヶ月見たらわかる。1年も見てわからなかったら(監督)失格だよね。(大事なのは選手が)そこから変わるかどうかだから。でも、長い間やっていたら『こうなりたい』というのが、どんどん出てくる。サッカーに関してね。俺も上にいきたい。上にいくためにどうしなければいけないかを見てきているからわかる。すべてとは言わないけれども、ある程度はわかっている。だからチームとクラブが変わるかどうかというところもあった。『こうしないと上にはいけないよ』というのがわかるから、長くいるうちに、変わらないと、変わらないとという、俺の要求が強くなりすぎたのかもしれない。選手に対してもクラブに対しても。よく言っていたのは、負けた試合のあとの(悔しいという)気持ち、俺と選手たちの気持ちがちょっと違うということ。その差がだんだん出てしまったのかな。そういうのは感じていた」
――それでもシーズンを重ねるごとに監督はあまり言わなくなっていきました。今年は言いたいことの半分も言ってないんだろうなと感じていましたが。
「言ったらやるけど、言わなかったらやらないというのじゃなと思って。監督としては勝ちたいから言うけどね。言わなくてもやれる選手は増えた。でも言わなきゃいけない選手に対しても言わなくなったというのはあったかもしれない。言うことによって、もっと落ち込んだらいけないとか。ケツを叩いてもやれる選手と、ケツを叩いたらダメになる選手がいる。パワハラじゃないけど、そういうのは今年は(気にするところが)あった」
予算のあるチームは5人交代制で選手を多数保有するように
――そういった変化はいろいろあったと思いますが、近年では5人交代が大きかったと思います。それによる難しさは感じましたか。……
Profile
村田亘
編集プロダクション勤務を経て2013年にフリーに。エルゴラッソの記者、編集部勤務を経て故郷の石川県にUターン。2019年からツエーゲン金沢を中心に取材を続ける。