footballistaはWEBメディアとして新しい挑戦を始めます
編集長からのメッセージ
「世界に学び、世界に勝つ」というコンセプトで2006年10月に創刊されたfootballistaですが、時代に合わせてマイナーチェンジを繰り返してきました。創刊当時は、週末の試合を中心にした欧州サッカーの「日常=1週間のサイクル」を伝えるために、「週刊」という形態で刊行していました。2013年の月刊化は、WEBの普及で速報性の需要が後退し、より特集色を強めた誌面構成を目指すための決断でした。
2015年8月に私が編集長に就任したタイミングで考えたのは、ペップ・グアルディオラの登場以降で急激に進化している欧州サッカー最前線のトレンドをキャッチアップすることでした。2016年4月号「戦術パラダイムシフト」特集をきっかけに、5レーン理論やポジショナルプレーといった戦術的な新概念、戦術的ピリオダイゼーションやエコロジカル・アプローチなどのトレーニング理論などを紹介してきました。
同時に2017年10月号「『選手=株式』欧州サッカー移籍ゲーム」特集など、グローバル化がもたらしたサッカー界全体のエコシステムの大きな変化も追ってきました。2019年3月号「総力戦となった現代サッカー」特集で取り上げたように、ピッチ内とピッチ外は繋がっていて、その2つの意思決定基準がそろっていないとサッカークラブは強くなれない、ということもわかってきたからです。
ありがたいことに、この頃からJリーグの関係者や育成年代の指導者の方から「読んでいますよ」という声をいただけることが増えてきました。最先端の戦術トレンドを知ることは自分の興味から始めた部分もありましたが、現場の人の役に立つ情報を届ける意義も感じ始めました。というのも、戦術的ピリオダイゼーションにしても、エコロジカル・アプローチにしても、欧州サッカーの現場で取り入れられている考え方は難解すぎて(ちなみに、スペインで学んだある日本人指導者は「今のバルセロナの指導者は大学教授みたいな人ばかり」と言っていました)、理解するにはアカデミックな知識が必要不可欠です。それを伝えられる人を発見して、全体を体系化して整理するのは「伝える側」の大きな仕事だとも思いました。
「理論」と「現場の現実」を兼ね備えたものを作りたい
そうこうしているうちに、すっかりマニアックになってしまったfootballistaは2020年2月、サブスクを始めることになりました。その理由はこちらを参照ください。
無料の記事でなるべく多くの人にサッカーとの接点を作ることもメディアの大切な役割ですが、footballistaはお金を払ってでも読みたい情報を届ける有料メディアとして、「広げる」ことよりも「掘り下げる」ことに舵を切ったわけです。
サブスクで意識してきたのは「『理論』と『現場の現実』を兼ね備えたものを作る」ことです。今までfootballistaがこだわってきた欧州サッカー最前線の情報を届けるために、レナート・バルディさんや林舞輝さんのような現場での経験と言語化能力を兼ね備えた人の発掘に力を入れてきました。彼らには目に見えるピッチ上の戦術だけでなく、それを実現させるためのトレーニング、その背景にあるフィロソフィなども解説してもらい、欧州サッカーの現場の人が読んでも納得できるものを目指しました。国内サッカーに関してもスタンスは同じで、当事者への取材はもちろん、Jクラブの記事はチームを長く見てきた番記者、あるいは「分析」などの特定分野のスペシャリティを持つ人にお願いしてきました。
そのようなコンセプトを貫くために雑誌、書籍、サブスクの3つを同じメンバーで制作してきましたが、マンパワー的な問題もあり、掘り下げたコンテンツを作り続けることが困難になってきました。ここしばらくは、我々自身が変化し続けている欧州サッカーで起こっていることをどれだけキャッチアップできているのか? 強くなった日本サッカーに今後求められることは何なのか? を自問自答する日々でした。
3つのメディアを続けてきたのは編集部メンバーの「雑誌」への思い入れが強いというのと、創刊メンバーとして木村浩嗣前編集長から受け継いできたバトンを繋げたいという思いからでしたが、footballistaが目指すものを追求していくためには分散していたリソースを1つに集中して、パワーアップする必要があると感じました。その受け皿は今後の伸びしろを考えれば紙の雑誌ではなく、WEBのサブスクであることは議論の余地はありませんでした。
「進化する日本サッカー」のために今できること
前述した「『選手=株式』欧州サッカー移籍ゲーム」特集で予測した通り、若手日本人選手の欧州移籍は加速しました。その結果、欧州組が大半になった日本代表はかつて弱点だった1対1のデュエルが今や強みにすらなっていますし、代表チームに関しては欧州サッカーとのギャップをほぼ感じなくなりました。Jクラブに関しても、戦術的なキャッチアップは急激に進んでいます。
今後の日本サッカーに求められているのは、単純に欧州サッカーのトレンドを伝えるだけでなく、それをどのように日本サッカーの状況に適応させていくのか、欧州サッカーと日本サッカーが地続きで繋がりつつある中で、Jリーグを中心とした日本サッカーの環境はどうあるべきなのかをみんなで考えていくことだと思います。
欧州サッカーとカレンダーを合わせる「秋春制」はもちろん、「スタジアム」「監督ライセンス」「ABC契約」「ポストユース問題」など、答えを出すのが難しい多くの課題があります。欧州サッカーの事例も参照しつつ、議論できる「場」を作る――というのを、次のfootballistaのミッションとしていきます。
今まで以上に欧州最先端の理論を探求しつつ、日本サッカーの新しい取り組みにも注目していきます。雑誌でやっていた欧州サッカーに関わる連載はWEBに移行予定で、国内サッカー記事もさらに充実させていきます。24年2月にリニューアルする「サブスク」では、新しい挑戦に全力をささげたいと思います。みなさんの力も借りながら、微力ながら日本サッカーの成長に貢献できればと考えております。引き続き、よろしくお願いいたします。
footballista編集長 浅野賀一
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Photos: Getty Images
Profile
浅野 賀一
1980年、北海道釧路市生まれ。3年半のサラリーマン生活を経て、2005年からフリーランス活動を開始。2006年10月から海外サッカー専門誌『footballista』の創刊メンバーとして加わり、2015年8月から編集長を務める。西部謙司氏との共著に『戦術に関してはこの本が最高峰』(東邦出版)がある。