11月18日、静岡県のIAIスタジアム日本平にU-22アルゼンチン代表を招いての国際親善試合が行われた。結果は5-2で日本が大差の勝利。続く21日に非公開で行われた練習試合は0-0のドローだったが、パリ五輪を目指す“大岩ジャパン”の強さを印象づける結果に終わっている。だが、現地取材した池田タツ(MCタツ)氏は、むしろ危機感を強めていた。
終わってみれば、スコアは5-2。圧勝にも思える点差だったが、果たして素直に喜んでいい試合だったのだろうか。
本稿では、『良い強化試合とは何か』についてあらためて考えていきたい。来年4月に迫った最終予選への道のりは険しく、時間はない。だからこそ、1試合も無駄にはできない。強化試合についても、厳しい目で見ておく必要がある。
アルゼンチンの対策を上回ったハイプレス
「日本が前線からプレスをかけてくるのはわかっていて、そこに対しての練習もしていました。だからこそ心配しています」
試合後の会見でアルゼンチンのハビエル・マスチェラーノ監督は、結果と内容の双方に落胆した様子を見せた。
試合は立ち上がりから日本ペース。アルゼンチンは日本のハイプレスを細かいパスワークで外そうと果敢にチャレンジしたが、自陣をなかなか出られなかった。
マスチェラーノ監督が言うように、大岩ジャパンの特長であるハイプレスが機能し日本が何度もいい形でボールを奪う。そんな形から、18分に佐藤恵允が先制点を奪うと、一度は逆転されたものの、最終的には5ゴールを奪うゴールラッシュとなった。
「スコアは別として、できていることと、なかなか自分たちで流れをつかめなかったところ、いろいろなことがあった90分だった。その中で我われのスタイルというものをしっかりと出して戦えたことが1つ収穫」
大岩監督もまた、課題と収穫の双方を得た試合と評した。
個人のパフォーマンスとしては、所属チームで出場時間を確保できていないことで心配もされていたMF藤田譲瑠チマ(シント=トロイデン)が強烈なリーダーシップを発揮し中盤でボールを狩り続けたのは印象的だった。
得てしてクラブで試合に出られていないと代表に来た時に消極的になりがちだが、藤田にそんな心配は無用。「レベルが高いサッカーが90分続いていたので本当に楽しい時間でした」と、本人も手応えを口にする。とはいえ、試合終了と同時にひざまずくほど「キツかった」。ゲームで必要な体力を取り戻すために、90分間の実戦の負荷を得られたことも大きかったかもしれない。
注目していたアジア競技大会勢では、佐藤恵允(ブレーメン)と松村優太(鹿島アントラーズ)の両者それぞれがファインゴールという目に見える結果を残した。これでアタッカー陣のポジション争いは激化するだろうし、チームの成長にとっても好材料だ。
「強化」を見つめ直す多様な観点
強化試合とは、こうしてまさにチームが強化されることを最大の目的とした試合だ。とはいえ、「強化」には多様な観点がある。
・以前から抱える課題を乗り越えること
・新たな課題と収穫が出ること
・選手たちが強い相手や厳しい環境を経験すること
・放映権料や入場料収入などで利益が出ること
・新しいファンを増やすこと
10月のアメリカ戦での課題は最終ラインの連携だった。先制点を許した形はチェイス・アンリ個人のパスミスも一因ではあったが、そもそも試合の立ち上がりから最終ラインの連携にずっと難があったことこそ最大の要因だ。
この課題は、アルゼンチン戦ではしっかり解消してきたと言っていいだろう。メンバーこそ違うが最終ラインの連携は、アメリカ戦よりも良くなっており、サイドバックが高い位置でボールを奪うシーンも増えた。特に当時招集外だった半田陸(ガンバ大阪)が右サイドで何度も相手ボールをカットしていた。その守備力は大岩ジャパンの強みであり、彼の帰還は大きい。
新たな課題と収穫といえば、後半開始から20分までの時間帯が挙げられる。ハーフタイムに修正をかけてきたアルゼンチンへの対策が遅れ、50分にフリーキックから逆転ゴールを許し、その後も試合の主導権を握られた。
56分にはティアゴ・アルマダ(アトランタ・ユナイテッド)とファクンド・ブオナノッテ(ブライトン)の連携で崩されたが、決定的なピンチはGK藤田和輝(栃木SC)のビッグセーブで難を逃れる。この試合の1つの大きなポイントと言えるファインプレーだった。
チームとしては、ハーフタイム後の相手の変化への対応が遅れてペースを握られる時間帯が20分も続いてしまったことは新たな課題だ。しかし「後半フリーキックで失点したが、その後の時間帯で失点しなかったのは一番大きかった」と半田は、主導権を握られたからこそ得られる組織としての成長も実感していた。
また初招集の福田師王も途中出場でいきなり点を決めた。新戦力という意味でもこれも収穫だ。
ホーム開催がもたらすジレンマ
しかし、ここまで上げてきたポジティブな要素を差し引いて考えなければいけないのは、ホーム開催の試合であるということだろう。……
Profile
池田 タツ
1980年、ニューヨーク生まれ。株式会社スクワッド、株式会社フロムワンを経て2016年に独立する。スポーツの文字コンテンツの編集、ライティング、生放送番組のプロデュース、制作、司会もする。湘南ベルマーレの水谷尚人社長との共著に『たのしめてるか。2016フロントの戦い』がある。