ホームで危なげなく勝利したミャンマー代表戦に続き、敵地でのシリア代表戦でも5得点完封勝利を収め順調な滑り出しを見せた日本代表。ここ数戦、試合ごとに大きく陣容を入れ替えているチームは今回、どのような表情を見せたのか。『森保JAPAN戦術レポート 大国撃破へのシナリオとベスト8の壁に挑んだ記録』の著者らいかーると氏が分析する。
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ミャンマー戦から選手を大幅に入れ替えた日本は、限りなくベストメンバーに近い形でシリア戦に臨む形となった。相手の質に依存する部分もあるだろうが、ターンオーバーによるコンディションの維持にこれほどの覚悟を持って取り組んでいた日本代表監督の記憶はない。
昨年のカタールW杯アジア最終予選で欧州からの合流組のコンディション問題に苦しんだことや、本大会で結果が出なかったコスタリカ戦での反省なのか、本気でラージグループの形成に取り組んでいる印象を受ける。2次予選において欧州組を呼ぶ必要があるのか?という議論がある一方で、ほとんどの選手が90分以上は試合に出ません、チームとして一緒に行動する価値を優先します!と言われれば、その姿勢を尊重するべきなのだろう。
最初の仕掛けは“守田が前、伊藤がセントラルハーフ”
日本のキックオフで始まったこのシリア戦でも前回同様、初手は左SBへの放り込みからであった。厳密に言えば空中戦を行った選手は上田綺世だったのだけど、最初に蹴る姿勢は一貫している。
日本のボール保持の配置は[4-3-3]。守田英正が左ハーフスペースを主戦場とし、久保建英は右のハーフスペースを持ち場としながらも、好きなタイミングでボールサイドに移動することで「+1」、瞬間的な数的優位を形成する役割を担っていた。
対するシリアはハイプレッシングと撤退守備を使い分け、プレッシングの配置は[4-1-4-1]。遠藤航と守田にマンマークをつける代わりに、日本のCBの片方に時間とスペースを与えることを許容しているようだった。この時間とスペースを有効利用することになった選手が谷口彰悟だったのだが、それについては後述する。
ボールを保持する日本の中で、興味深かったのが伊藤洋輝の動きだ。アンカー役の遠藤は相手の前、インサイドハーフ役の守田と久保は相手の背中を初期配置としていたのだが、そんな中で遠藤の横でプレーする伊藤の存在は、相手からしても厄介だったろう。ミャンマー戦の反省点であったCBの攻撃参加による配置バランスの悪さを改善する意味においても、伊藤の柔軟な立ち位置は日本のバランス改善に貢献し、守田の攻撃参加を助けていた。シリアとの配置のかみ合わせの上でも、遠藤の傍でプレーする伊藤の立ち位置は相手を迷わせることに成功していた。
久保の得意技である相手ブロックの中と外を行ったり来たりする移動が垣間見える中で、日本はシリアのプレッシングを丁寧にはがしながら前進に成功していく。この試合のビルドアップはセントラルハーフのように振る舞う伊藤から、シリアが空けてくれていたCB谷口へ預けるパスルートが多く、谷口からのボールを久保が引き取って日本の攻撃が加速していく場面が目立っていた。
6分には久保のカットインからのスルーパスに上田が抜け出し決定機を迎える。ミャンマー戦と同じ構造のチャンスメイクというよりは、裏抜けのタイミングでカットインするサッカーそのものの原則と言うべきものであった。上田が動き出すタイミングをチームで共有している証であり、非常にポジティブな現象ではなかっただろうか。
次の対応策は“守田の自由化”
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Profile
らいかーると
昭和生まれ平成育ちの浦和出身。サッカー戦術分析ブログ『サッカーの面白い戦術分析を心がけます』の主宰で、そのユニークな語り口から指導者にもかかわらず『footballista』や『フットボール批評』など様々な媒体で記事を寄稿するようになった人気ブロガー。書くことは非常に勉強になるので、「他の監督やコーチも参加してくれないかな」と心のどこかで願っている。好きなバンドは、マンチェスター出身のNew Order。 著書に『アナリシス・アイ サッカーの面白い戦術分析の方法、教えます』(小学館)。