シーズンが始まる前に「補強禁止」という厳しい処分が下され、絶体絶命と思われたジュビロ磐田は、しかし、見事に逆風を跳ね除けた。今季就任した横内昭展監督の下で一丸となったチームは何を握りしめ、何を積み上げ、J1昇格を掴み取ったのか。そしてこの昇格劇は来季へと繋がる序章に過ぎない。この1年間のチームの成長ぶりを間近で見届けてきた磐田の番記者、森亮太がレポートする。
補強禁止という厳しいシーズンがスタート
なぜ、磐田は補強禁止でも昇格できたのか――。
2シーズンをかけてJ1へ復帰した昨季、サックスブルーに待っていた現実はあまりにも厳しいものだった。J1仕様の強度を満たせずに、シーズンを通じて苦しい戦いを強いられ、最後に突きつけられたのは1年でのJ2への逆戻り――。自分たちの力不足を認めざる得ない結果だった。
そこに追い討ちをかけたのが補強禁止処分だった。
ファビアン・ゴンザレスの契約問題によって、FIFAから当該選手に公式戦4ヶ月間出場停止を下されただけでなく、2度の選手登録期間で新規加入選手を登録できないという重い処分を下された。鈴木海音や藤川虎太朗など4人のレンタルバック組と高校2年生の後藤啓介をユースからトップへ昇格させたものの、戦力的には十分な上積みがあったとは言えない中での厳しいシーズンスタートだった。
チームを作り直す過程で監督と選手の目線がブレなかった
そういったチームの再建を託されたのは、カタールW杯で森保一監督の右腕として日本を支えた横内昭展監督だ。
W杯後に正式なオファーを受け、監督への挑戦を望んでいた指揮官は、チーム始動日のミーティングで選手たちにこんな言葉を伝えたと言う。
「横内さんからは、『もう一度チームとしての基盤を作り直さなければいけない』という話がありました。それは自分自身が数年感じてきたことで、その基盤をみんなで作っていきたい」(山田大記)。
ここ数年間、監督が変わる度にチームとしてのスタイルも右往左往し、目先の結果を優先してきたが故に、そこに一貫性もなかった。そういった背景を踏まえ、選手たち自身もチームの基盤となるスタイルを構築していく必要性を感じていた。だからこそ指揮官と選手たちの目線がシーズン通してブレなかった。
「個人の成長無くして、チームの成長はない」
この言葉は、チームの基盤を作る上で横内監督が選手たちに求めてきたことだ。
チームという木に宿る選手という実の粒を大きくしていくことで、チームとしての幹を太くしていく。段階を踏んで着実にチームを成長させてきたのが今季の最も大きなトピックだった。
では、チームはシーズンを通じてどんな成長を遂げてきたのか。その成長の軌跡をここから振り返っていきたい。
戦うための強度をシーズンを通して上積みできた
チーム始動当初、選手個々の特長を把握するところからのスタートだった指揮官が最初に取り掛かったのは個々のベースアップだ。
球際や切り替えといったサッカーで戦うための根本となる部分を選手たちに要求してきた。だが、これは一朝一夕に身につくものではない。だからこそ指揮官は、シーズンを通じて「(強度を)試合の時だけ引き上げることは不可能。僕が感じたことを日常の中で選手に伝えながら、そのアプローチは根気強くやっていきたい」という思いで、この要求はどんな状況でもブレなかった。……
Profile
森 亮太
1990年生まれ、静岡県出身。主に静岡県で活動するフリーライター。18年からジュビロ磐田とアスルクラロ沼津の番記者としてサッカー専門新聞”エルゴラッソ”やサッカーダイジェストなど、各媒体へ記事を寄稿している。