代表ウィーク明けの11月25日(土)に開催されるプレミアリーグ第13節マンチェスター・シティ(1位)対リバプール(2位)。勝ち点1差の首位攻防戦は現地時間12時半のランチタイムに火ぶたが切って落とされるが、こうしたキックオフ時間はどのように決められているのか。その背景にある放送局『TNT』の思惑を、リバプール大学でフットボール産業MBAを学んだ重田良輔氏と探っていこう。
「ランチタイムキックオフ」――海外サッカーファンなら一度は聞いたことがある言葉ではないだろうか。「現地時間12時半キックオフ」を意味し、3月下旬から10月下旬までのサマータイム期間中は日本時間20時半、それ以外は21時半に始まる試合は、日本で深夜放送が当然の欧州サッカーの中でも比較的視聴しやすく、イギリス国内でも昼間からイングリッシュ・プレミアリーグ(EPL)を楽しめる人気枠として親しまれている。
しかし、選手や監督を含めた現場目線ではあまり好まれていないのが実情だ。特に土曜日のランチタイムキックオフは準備期間の短さからコンディション調整が難しく、それが試合結果、最終順位に直結することも少なくない。イングランドメディアの間でもチームの勝率を試合開始時間帯別に割り出す「煽り」がお馴染みで、データ会社Optaも「土曜ランチタイムキックオフの試合は他の試合と比べて平均レッドカード数が飛び抜けて多い」という統計結果を出しているほど。
そしてまさに第12節を終えた2023-24シーズンのEPLで、この土曜日ランチタイムのキックオフ数が早くも2に達しているのがリバプールだ。この数字に並ぶのはトッテナムのみで、さらに15-16シーズン途中のユルゲン・クロップ監督就任から22-23シーズンまでのビッグ6のランチタイムキックオフ数を数えてみると、トップ3は上から順にトッテナムが36試合、リバプールが35試合、マンチェスター・シティの33試合。そのうちリバプールは24試合が敵地開催で、インターナショナルブレイク明けの試合数も2番目に多いトッテナムとチェルシー(6試合)の2倍以上、最多の14試合に達している。今季もここまで土曜日のランチタイムキックオフがすべて代表ウィーク明けに予定されている明らかな不公平ぶりから、指揮官も「こんなのはふざけている」と憤慨しているのが現状だ。
キックオフ時間を決める「パッケージ」と「ピック」
この不満を生み出している要因こそ、EPLと放送局の間にある「パッケージ」と「ピック」だ。まず国内放映権の販売では下図の通りそれぞれ年間でキックオフ時間と試合数が異なるAからGまで7つのパッケージが用意されている。
これらが過去記事「放映権料高騰に揺れるイングランド。プレミアリーグの公平分配が生む下部リーグの経済格差とは」内でも言及しているように、EPL発足から独占的に生放送を担当してきた『Sky』、そこに07-08シーズンから受け入れられてきた複数の放送局、近年では『TNT』(7月に『BT』から名称変更)と『Amazon Prime』が加わった計3社の間で分けられ、シーズン全380試合のうちローカルルール「ブラックアウト」で放送が禁じられている土曜15時キックオフの試合以外の200試合をカバーしている。
もう1つ、キックオフ時間を決める要素にピックがある。当然注目度の高いカードは視聴者が集まりやすい時間帯にぶつけたいもの。そこでEPLでは毎節10試合から2試合ずつを1stピックから5thピックまでの5ランクに分けている。一例として未確定の第23節を当てはめてみよう。……
Profile
重田 良輔
1991年生まれ。兵庫県出身。商社を7年間勤めたのち、2022年9月よりリバプール大学大学院Football Industries MBA(FIMBA)を受講。50試合以上の現地観戦とFIMBAでの勉学からなるイングリッシュフットボールカルチャーの理解に基づき、フットボールクラブのブランディング、マーケティングについてフォーカスします。リバプールファン。ホームスタジアムまでは徒歩で行くことをおすすめします。