この夏の移籍の中でも、大きなインパクトを残したのが福田翔生のケースだ。JFL時代に加入して4シーズンを過ごしたFC今治を退団し、今季からJ3のY.S.C.C.横浜へ完全移籍で加わると、8月までに11ゴールをマーク。その活躍に目を付けた湘南ベルマーレからのオファーを受け、まだシーズンの途中ながら一足飛びにJ1へのステップアップを果たした。湘南加入後も途中出場を重ね、残留争いを繰り広げるチームの中で少しずつ存在感を示しているが、明確な覚悟を携えて新天地で奮闘していることは、言葉の端々から窺える。今回もベルマーレの見守りびと・隈元大吾に、福田の今を綴ってもらう。
「完全に自分の責任です」「批判は全部自分に言ってほしいです」
試合終了の長い笛が響くと、福田翔生はくずおれてしまう体を支えるかのように膝に手をついた。そのままうなだれ、頭を掻きむしる。ようやく上げた瞳には悔しさが滲んでいた。
首位のヴィッセル神戸をホームに迎えた第31節、湘南ベルマーレは1-1で引き分けた。残留争いの渦中にある彼らは、組織的な守備から素早く攻めに転じ、流れを手繰り寄せていく。11分には大橋祐紀の3戦連続となるゴールで先制し、白熱の攻防を主導した。後半に入ってまもなく同点に追いつかれるも、その後はGK富居大樹ら守備陣の奮闘もあり得点を許さず、攻めては人数をかけてチャンスを築いた。勝機はたしかに萌していた。
そして福田もまた途中出場すると、持ち前のスピードを活かしてカウンターを牽引し、自らゴールに迫りもした。だがシュートはいずれも神戸守備陣の分厚い壁に阻まれ、求める結果には届かなかった。
「完全に自分の責任です」
引き分けに終わったくだんの一戦を、福田はまっすぐに振り返る。
「チームを勝たせる得点を決められなかった。湘南のためになんとかしたいという気持ちが強く、自分でやろうとしすぎて、点を決めようとしすぎて、空回りしてしまった。もう少し冷静さが必要だという気付きは得られましたけど、決められなかったのはFWの自分の責任なので、批判は全部自分に言ってほしいです」
プロキャリアのスタートはJFL時代のFC今治から
かように自身に矢印を向ける22歳は今夏、J3のY.S.C.C.横浜から湘南に完全移籍で加入した。その道のりはしかし、順風満帆とは言いがたい。東福岡高校を卒業した2019年、プロのキャリアのスタートは当時JFLのFC今治だった。
「成長して這い上がっていくしかない、“ナニクソ根性”で頑張るんだと思ってずっとやっていました。雑草魂ですね。早くJ1でプレーしたいと思っていたし、遠い場所とは思っていなかった。でも簡単なことじゃない。なんて言えばいいんですかね…… 届きそうで遠いような感覚でした」
今治は昇格を果たし、翌2020年よりJ3にステージを移した。だが福田の出場機会は限られ、JFL時代を含めて在籍4年間で一度もゴールを挙げることはできなかった。
支えとなったのは、ガンバ大阪でプレーする兄の湧矢の言葉だった。
「いつも兄ちゃんと冬に練習するんですけど、今治のときも、今年YSに入るまえも、『おまえなら絶対やれるから大丈夫』と言ってくれた。兄ちゃんはJ1でプレーしている選手だし、確信がなければそういうことは言わない。だからそれがずっと俺の自信になっています」
YS横浜での躍動。そして、一気にJ1のステージへ!
にわかに注目を集めるようになったのは、YS横浜に加入した今季のことだ。開幕からスタメン出場を続けると、徐々にゴールを重ね、湘南に移籍する8月なかばまでに11得点をマークした。
爆発的な飛躍のゆえんは、意識の変化と恩師の存在に辿れるようだ。……
Profile
隈元 大吾
湘南ベルマーレを中心に取材、執筆。サッカー専門誌や一般誌、Web媒体等に寄稿するほか、クラブのオフィシャルハンドブックやマッチデイプログラム、企画等に携わる。著書に『監督・曺貴裁の指導論~選手を伸ばす30のエピソード』(産業能率大学出版部)など。