相手が10人になっても得点が取れるわけではないのがサッカーである。10月21日のマージーサイドダービー、「0-0」狙いに徹したエバートンに対し、リバプールはいかにして勝利(2-0)をたぐり寄せたのか。西部謙司氏が分析する。
リバプールの流動性の高いビルドアップ
プレミアリーグ第9節のマージーサイドダービーに勝利したリバプールは首位と勝ち点3差の4位をキープした。試合のターニングポイントは37分のアシュリー・ヤングの退場。これ以降のエバートンは専守防衛に徹して0-0の引き分けを目指す。しかし、75分にルイス・ディアスのクロスボールがカバーしていたキーンの手に当たってPKを獲得。サラーが決めて均衡を破る。これで勝負ありだった。アディショナルタイムにカウンターからサラーが2点目をゲットしたが、こちらはオマケみたいなものだ。エバートンはほぼ得点を諦めていたので、リバプールにとっては固められたローブロックをいかに打ち破って1点を取るかがすべてだった。
かつてイングランドではレッドカードをもらった選手は、フィールドの外を周回して観客の罵声を浴びなければならなかったそうだ。聞いた話であり、実際にそういうシーンを見た記憶はないのだが、早い時間に退場者が出てしまうと試合自体が壊れてしまうことはよくある。今回のマージーサイドダービーも試合の性格が変わってしまった。
エバートンは開始40秒で左からのハイクロスをCFカルバート・ルーウィンがヘディングシュート。競り合ったファン・ダイクのはるか上に跳び上がっていた。先にジャンプして制空権を握り、ファン・ダイクに十分な跳躍をさせない巧さがあった。エバートンの強みはゴール前の高さであり、スタッツを見てもクロスボールの数が多いのはそのためだ。キックオフから早々に“エア・ルーウイン”の威力を見せつけていた。
青のチームに勝機があるとすれば、空中戦とカウンタープレスだったはずだ。ドイツでゲーゲンプレッシングと呼ばれた前方からの守備は、奪えば即チャンスに繋がる。このボールを持たない攻撃を世に知らしめたのが、現在は赤のチームのユルゲン・クロップ監督だった。ただ、現在のリバプールはもはやプレッシングやストーミングのチームではない。
今季のビルドアップは独特で、右SBのアレクサンダー・アーノルドがボランチの位置でプレーする。いわゆる「偽SB」だが、それよりもはっきりMFでありプレーメイカーなのだ。ビルドアップの開始時点ではコナテ、ファン・ダイク、ツィミカスの3バック。その前方中央にマカリステルとA.アーノルド。ただ、左SBツィミカスは前方の高い位置へ移行するので実質的には2バックとなる。……
Profile
西部 謙司
1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。