今年8月、ロベルト・マンチーニ前監督の電撃辞任(その後サウジアラビア代表監督に就任)という想定外の事態に直面したイタリア代表は、昨シーズン限りでナポリ監督を辞したルチャーノ・スパレッティを後任に迎えて、EURO2024予選を戦っている。カテナッチョからポジショナルプレーへの転換を果たした前任者のサッカーから、さらに何が変化したのか? イングランド戦までの4試合で見えた「スパレッティのイタリア」の現状を片野道郎氏に掘り下げてもらった。
スパレッティ就任は(結果的にだが)悪くないタイミング
2年前のEURO2020で予想外の躍進を見せて優勝したイタリア代表だったが、その直後のカタールW杯予選ではプレーオフで敗退を喫し、前回のロシア大会に続いて2大会連続で出場権を逃すという不名誉な結果に終わったことは周知の通り。
その後、引き続きマンチーニ監督の下でEURO2024、そして2026年の北米W杯に向けたチームの再構築に取り組んできていたものの、戦力的にも戦術的にも進化や向上が見られず、特に今年に入って以降は停滞感が強まりつつあった。
マンチーニが突如辞任を決断した背景にそうした状況認識があったかどうかは定かではない。しかし結果として生じたこの監督交代には、そうした停滞感を払拭して新たなサイクルをスタートするという意味において、むしろポジティブに受け止めるべき側面があったことも確かだ。後任に就いたのが、ここ2年間ナポリを率いて魅力的な攻撃サッカーを展開してきたベテラン監督スパレッティなのだからなおさらである。
その新監督にとって最初のミッションとなったEURO2024予選は、イタリアに加えてイングランド、ウクライナ、北マケドニア、マルタというグループ構成。グループ2位でもプレーオフ送りというW杯予選とは異なり、上位2チームが本大会に直接エントリーできるというレギュレーションで、勝ち上がりはそれほど難しくないように思われた。
しかし、初陣となった9月9日の北マケドニア戦は、昨年3月のカタールW杯予選プレーオフで敗れた相手にまたも足をすくわれる形で1-1の引き分けに留まった。この痛い取りこぼしの後、ウクライナ、マルタには勝ったものの、さる10月17日にウェンブリーで行われたイングランド戦は1-3で敗北。3月にサンシーロで行われたホーム戦に続きイングランドに2敗目を喫したことで、グループ通算成績は3勝1分2敗(勝ち点10)となり、消化が1試合多いウクライナに抜かれてグループ3位に転落してしまった。
すでに勝ち上がりを決めているイングランドに続いて2位抜けを果たせるかどうかは、11月に組まれている予選残り2試合の結果次第。最終戦となるウクライナとの直接対決(11月20日・アウェイだが会場は中立地のレバークーゼン)に勝てば、その3日前に行われる北マケドニア戦の結果にかかわらず2位抜けが確定する。北マケドニアに勝った場合は、ウクライナ戦で引き分け以上、あるいは0-1の敗戦でもOK。上記のいずれも満たせなかった場合には、来年3月のプレーオフに回ることになる。
ジョルジーニョ&ベラッティ・システムとの訣別
目先の結果だけに話を限れば、スパレッティ新体制への評価は、残る北マケドニア、ウクライナとの2試合にきっちり勝って、EURO本大会への出場権を確保できるかという一点に懸かっている。現時点で世界のトップ5に入っているイングランドに敗れたのは仕方ないとしても、格下の北マケドニアに(またもや)取りこぼしたのは明らかな減点対象だ。
とはいえ、2010年代から長らく低迷期が続いてきたイタリア代表の再建、EURO2020を制したチームに区切りをつけて新たなサイクルを立ち上げ、次のW杯で世界のトップレベルと互角に渡り合えるレベルまで強化していくという中期的な視点から見れば、新体制の滑り出しは今後に希望を持たせるものだ。それは何よりも、9月と10月、2回の代表招集下で戦った4試合を通じて、チームがスパレッティの下で新たなアイデンティティを確立しつつあるように見えるからだ。……
Profile
片野 道郎
1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。