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サッカー版ChatGPT「SCOUTGPT」って何?AI活用の現状と課題から占うスカウトの将来像

2023.10.23

私たちの生活や仕事に急浸透しようとしている「ChatGPT」などの生成AIサービス。サッカーも例外ではなく、ストークでも働いた現役スカウトの田丸雄己氏は、その台頭に危機感を抱いているという。背景にあるスカウティング現場でのAI活用の現状と課題を、「サッカー版ChatGPT」として話題を集めている「SCOUTGPT」の使用感とともに伝えてもらった。

 「2020~2022年のスカウティングは全部映像とデータでやったよ」

 最近とあるプレミアリーグクラブで働くスカウト副部長と話す機会があった。これはコロナ禍以降のスカウティングの流れの変化を象徴する一言である。

 イングランドでは未だに下部組織や遠隔地のスカウティングには現地に人を送り込んで視察させる人海戦術を駆使するのが一般的。おかげでむしろスカウトの数が増えているぐらいだが、こと欧州内や国内のトップチームスカウティングに関しては人的リソースを削り始めている。

 その理由としては、映像とデータで効果的に選手発掘した成功事例がすでに無数にある点、人員増に伴うスカウトのクオリティコントロールをカバーし切れない点などが挙げられる。現在、多くのクラブは拠点とするトレーニンググラウンドにスカウトを集約し、そこでテクノロジーを活用したタレント発掘活動に移行し始めている。

プロ顔負けの選手レポートを生成!スカウトのChatGPT実用例

 この流れに拍車をかけているのが、生成AIだ。英語では「Generative AI」と呼ばれるこの人工知能とは一体何か、自身も生成AIであるかの有名な「ChatGPT」に聞いてみると、「コンピュータープログラムやアルゴリズムを使用して、新しいデータやコンテンツを生成する技術」という答えが返ってきた。すでに生成AIは自然言語処理と呼ばれる文章作成、チャットボット、要約に加え、画像作成や音声作成、ゲーム開発などに応用されており、同様にスカウト現場でもまだ実用例こそ多くはないが導入されつつある。

 まず使われるのが情報の整理整頓である。例えば、自分が試合中にスマートフォンで打ち込んだ乱雑で整理されていない選手の特徴を投げると、綺麗なレポートに変換。メモごとの繋がりを考えて読みやすい文章にしてくれる。11人全員分のメモを投げても綺麗に返してくれるので、レポートとして書き出す作業の時短に使える。

 他にもインターネット上に載っている試合の情報や選手の情報をコピー&ペーストしてChatGPTに読み込ませると、スプレッドシートで使用可能なテーブルに直してくれたり、必要な情報だけを抜き取ってポイントでまとめてくれる。

 加えて、ポジション毎チェックリストの下書き作成も可能だ。例えば、「[4-3-3]でポゼッションをするチームのSBにはどのような能力が求められますか?」という質問にもベーシックな内容であるが答えてくれる。ただし、あくまでドラフトとしてであり、クラブのスタイルや詳細の部分は手直しが必要。他にもパフォーマンスの生データをビジュアル化するためのPythonのコードを書いてくれたり、数値を使用して選手のクラスタリングのためのK Meansの計算をチェックしてくれたりと様々な分野で手間と時間を減らしてくれる。……

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Profile

田丸 雄己

1994年生まれ。高校卒業後、イギリスに短期留学した後、Jクラブやサッカーコンサルティング会社での勤務を経験。その後、イギリス、ロンドンにあるセントメアリーズ大学に進学。在学中にチェルシーアカデミーでスカウトのインターンを経験し、現在は英二部ストーク・シティとスコットランド一部マザーウェルでスカウトとして活動中。ロンドンエリア、Jリーグのスカウトを担当している。

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