かつてレアル・マドリーで脇役に甘んじていた天才が、31歳にして主役の座に返り咲きつつある。イスコの復活劇をベティスを舞台に演出しているマヌエル・ペジェグリーニ監督の脚本を、現地スペイン在住の木村浩嗣氏と読み解いていこう。
イスコが復活した。
ベティスのマヌエル・ペジェグリーニ監督は「エンジニア」というあだ名で、限られた戦力で強いチームを作り出す能力に優れている。レアル・マドリーでは失敗しマラガとベティスでは成功しているので、何かハンディがある方が手腕を発揮できるのでは、と思う。今季も主力の移籍とケガ人続出でELのCB登録が2人しかおらず1人はケガ中という厳しい状況下で、無名だった若手(アブネル、チャディ・リアド、アサン・ディアオ)を大抜擢して戦えるチームを作っている。
イスコもその“ハンディ”の1人だろう。レアル・マドリーでほとんど出場機会がなく、セビージャではクリスマスまでもたずに喧嘩別れ、「所属チームなし」が半年以上続いた後にベティス入りした。ペジェグリーニが太鼓判を押したらしいが、ハイリスクな獲得には不安の声の方が大きかった。
だが、復活した。
プレー時間(第9節終了時711分)のランキングではラ・リーガで61位。久保建英はソシエダの絶対的なレギュラーで“勤続疲労”が話題になっているが、プレー時間641分は93位である。ただ、イスコの復活ぶりを知ってもらうには実際にプレーぶりを見てもらうしかない。1ゴール、1アシストという一般的なスタッツはもちろん、シュートに繋がるパス本数でリーガ3位という深堀りスタッツでも凄さは十分には見えてこないから。
復活には本人も言っているように心理カウンセラーの助けによるメンタルの改善とか、ペジェグリーニ監督とのミーティングによって自信が回復したとかもあるのだろう。だが、それらについては知る術がない。ここでは、戦術的、采配的な見えているものから復活の理由に迫りたい。
「トップ下兼ボランチ」化の制限で光るパウサの正体
ベティスのシステムは[4-2-3-1]。イスコは2列目の真ん中、トップ下に置かれている。ペジェグリーニでなくても彼を知る者なら誰でもトップ下が最適ポジションであることはわかる。スペイン代表では[4-3-3]の1列目左、レアル・マドリーでは同じく1列目左と2列目左(左インサイドMF)で起用されたが、これはあくまでチーム事情が優先されたため。イスコには自由度が高く、視野が広く、守備の負担が少なく、傑出したパス能力が生きるトップ下が最適だし、本人も好んでいるし、代表でもレアル・マドリーでも実際にはトップ下的にポジショニングしプレーしていた。
ちなみにベティスのシステムというかペジェグリーニのシステムはもともと[4-2-3-1]でイスコ用にアレンジしたわけではない。不動のトップ下だったナビル・フェキールが十字靭帯を断裂し代役としてイスコがはまった。
ペジェグリーニの手柄はトップ下に置いたことではない。トップ下以外の仕事をさせなかったことだ。……
Profile
木村 浩嗣
編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。