横浜F・マリノスとセルティックを国内リーグ制覇に導いた優勝請負人アンジェ・ポステコグルーを新指揮官に迎え、2023-24シーズンのプレミアリーグで首位争いを牽引するトッテナム。イングランドでも猛威を振るう “アンジェ・ボール”を最終ラインから支えている新戦力こそ、今夏入団したばかりのミッキー・ファン・デ・フェンだ。4年前までは無名だったアヤックス産ではない「クライフイズムのDF」の知られざる物語を、彼の母国オランダで取材する中田徹氏に教えてもらおう。
トッテナムが好調だ。10月7日、ルートンとのアウェイゲームを0-1で勝利した彼らはプレミアリーグ8節目にしてアーセナルと勝ち点20、得失点差+10で並び、得点数で上回って首位に立った。その決勝弾は、ミッキー・ファン・デ・フェン(22歳)にとって待望の加入後初ゴールだった。
「チームとして、我われは本当に素晴らしいメンタリティを示しました。トッテナム・ホットスパーでプレミアリーグ初ゴールを決めることができてとてもうれしいです。そしてクリーンシート。DFとして最高の気分ですよ。冗談のようですが、スタジアムへ向かうバスの中、私に向かってソン(・フンミン)が『君は今日、初ゴールを決めるよ』と言てくれたのです。それが現実となりました」
ボルフスブルクからトッテナムへの移籍が発表されたのは8月8日のこと。開幕戦の対ブレントフォード(8月13日/2-2)まで3度のチーム練習に参加しただけだったが、アンジェ・ポステコグルー新監督は若きCBのスタメン抜擢をためらわなかった。
「私は彼を試合に出すことを待つことができたかもしれない。しかし、彼はうちのチームにとって本当にとてもいい選手であるという感触が、私にはありました。プレミアリーグでデビューするのが早ければ早いほど、彼はいい選手になっていくのです」(ポステコグルー)
それから2カ月、ファン・デ・フェンはアルゼンチン代表のクリスティアン・ロメロと息のあったコンビを組み、“アンジェ・ボール”の代名詞であるハイラインを自慢の快速でカバーしながら6勝2分というポステコグルー体制の好スタートに貢献している。チーム内で唯一、公式戦全試合(リーグ戦8試合+リーグ杯1試合)でフル出場しているのも彼だ。
7節リバプール戦ではコディ・ガクポにつき切れずゴールを許すなど、ファン・デ・フェンには荒削りなところがあるものの、最後尾でそのポテンシャルを目の当たりにしているGKグリエルモ・ビカーリオは「ミッキーが毎日成長しているのがわかります。彼と一緒にプレーできることにとても感謝しています」と褒め称え、かつてドイツの古豪、ハンブルガーSVとレバークーゼンでプレーしたソン主将は「彼のプレーを見るのは本当に楽しい。2人ともドイツ語を話すので、お互いのことをよく理解し合っています」と語る。
クライフの遺志を継ぐ「チーム・ヨンク」との出会いが転機に
プレミアリーグで順風満帆なスタートを切ったファン・デ・フェンは10月、EURO予選のフランス戦(●1-2)で途中出場しオランダ代表初キャップを記録した。しかし、フォーレンダムの年代別チームでプレーしていた時、彼はクラブから「フォーレンダムに君の未来はない。どこか他のチームに移ったほうがいい」と助言されていた。
「ユースではストライカーから左ウイングへ、それからCBにコンバートされましたが、僕がトップチームに昇格できるとは思えませんでした。1年間、地元のアマチュアクラブ『フォルトゥナ・ウォルメルフェール』でプレーしてからプロに再挑戦することも考えました」(ファン・デ・フェン)
春なのに浮かない気持ちの18歳は1年の浪人も覚悟してU-19チームでプレーしていた。そんな悩めるファン・デ・フェンを救ったのが『チーム・ヨンク』だった。……
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中田 徹
メキシコW杯のブラジル対フランスを超える試合を見たい、ボンボネーラの興奮を超える現場へ行きたい……。その気持ちが観戦、取材のモチベーション。どんな試合でも楽しそうにサッカーを見るオランダ人の姿に啓発され、中小クラブの取材にも力を注いでいる。