4得点を挙げたカナダ代表戦から先発を7人入れ替えた日本代表は、チュニジア代表を2-0で下しW杯アジア予選前最後の実戦を勝利で締めくくった。試合のポイントとなった日本のビルドアップのアプローチを中心に、『森保JAPAN戦術レポート 大国撃破へのシナリオとベスト8の壁に挑んだ記録』の著者らいかーると氏が試合を分析する。
<ご購入はこちら>
カナダ戦と同じように中山雄太への放り込みで始まったチュニジア戦は、久々に日本がボールを持たされる格好となった。W杯アジア予選やアジアカップを考慮すると、日本にとってある意味望ましい展開と言えるかもしれない。一方で、ポジショナルプレーが標準化された世界において、プレッシングの強度と守備の基準点の再設定を繰り返してきた日本のこれまでの姿勢は決して間違ったものではないのだろう。
自ら動くのではない、ビルドアップの試み
チュニジアは、プレッシングを行う配置を[5-2-3]でスタートした。プレッシング開始ラインはハーフウェイラインから日本陣地寄りくらいで、日本にボールを持たせて準備万端で迎え撃つ気満々のようだった。チュニジアのボール保持に目を向けると、3バックによるズレを利用する意図が見えたが、初手からGKまでプレッシングをかける古橋亨梧の献身性もあり、日本のプレッシング強度に面食らうこととなる。そんな要素もあって、日本がボールを保持する展開が試合の中心となっていった。
日本の配置は[4-2-3-1]。日本の[4-2-3-1]の特徴は、トップ下の選手が相手のライン間で延々と戦い続ける点にある。時間の経過とともにプレーに絡むため列を下りてプレーするようになり、実質的に[4-3-3]と変わらないやんけ!となることが“あるある”となっていた。だが、久保建英がトップ下に配置されたこの試合の[4-2-3-1]は、いつもの日本の[4-2-3-1]と異なる表情を見せ始める。
これまでの日本のビルドアップは、選手の移動によって相手の配置とのズレを生み出し、ボール保持者をオープンな形にすることを得意としてきた。代表的な例が、[4-3-3]で行われてきたインサイドハーフがボールを受けに下りていく動きだろう。相手のプレッシングの届かない位置に移動して前を向き、相手を動かして時間とスペースを配っていく守田英正と田中碧のプレーは、カタールW杯へ向けたアジア最終予選で死に体だった日本のサッカーを蘇らせた一因と言っても過言ではなかった。……
Profile
らいかーると
昭和生まれ平成育ちの浦和出身。サッカー戦術分析ブログ『サッカーの面白い戦術分析を心がけます』の主宰で、そのユニークな語り口から指導者にもかかわらず『footballista』や『フットボール批評』など様々な媒体で記事を寄稿するようになった人気ブロガー。書くことは非常に勉強になるので、「他の監督やコーチも参加してくれないかな」と心のどこかで願っている。好きなバンドは、マンチェスター出身のNew Order。 著書に『アナリシス・アイ サッカーの面白い戦術分析の方法、教えます』(小学館)。