今年8月、J1昇格争いを展開する清水エスパルスのプレイヤーデベロップメントコーチとして就任した中田一三氏。中田氏といえば、19年に当時J2の京都サンガF.C.の監督に就任し、SNS上での歯に衣着せぬ発信も含め、際立った手腕を発揮したことで知られる。その中田氏が4年ぶりにJリーグの舞台に戻ってきた。清水ではプレイヤーデベロップメントコーチとして選手の何に着目し、どう改善しようとしているのか。今回はインタビューの後編をお届けする。
気づきを促すためにアプローチは慎重に
――選手に“気づき”を与えるのって、すごく難しいですよね。
「そうですね。やっぱり人は習慣の生き物だし、過去の成功体験に固執するので。それをリセットできるぐらいの受け入れ体勢というか、オープンな状態がないと、なかなか僕らの言葉も入っていかないですよ。逆にそれがストレスに感じる場合もあるし。もちろん、過去の経験とか土台が世界につながるものであれば、そのままやっていけばいいですが、その土台が少し偏っていて、それにこだわってたら、その範囲でしか伸びないですよね」
――誰でも自分が今までやってきて、成功してきたことに固執したくなりますもんね。
「なりますね。それが大切だし、そのやり方は知ってるから、それ以外のやり方は、その人にとってはリスクが高いことになるんですよね。でも、そのリスクが高いところにいろんなヒントがあるし、本当はリスクではないんですけどね。自分が培ってきたものが失われるわけではないので。ただ、今までと違う考え方や見方を求めると、受け取る側は自分を否定されたみたいにも聞こえるじゃないですか。自分の経験を否定されているみたいにも聞こえる。敵みたいに思われることもあるから、アプローチは慎重にしないといけません。その選手が何かを欲しているタイミングとかを見て、映像を見せたり、騙されたと思ってやってみて、と言ったり。そうしたら意外にできた、あれ? 面白いなとか、そういうことを積み重ねながら信頼関係を築いていく。それによって選手がオープンにいろんなことを吸収できる状態になっていく。そういう機会を探っていくこと、見逃さないことも、自分の仕事のひとつだと思っています」
“即効性”のある指導で存在価値を示す
――選手との信頼関係も時間をかけて作らなければいけないし、非常に繊細な仕事ですね。
「そうですね。選手はプロの世界に入って『こんなに上手い人がいるんだ』と気づかされるし、知らない世界とか見えてないものもたくさんある。だから僕としては、彼らを尊重しながらも、その知らない世界にいろんなヒントがあることを気づかせていきたいんですよ。でも、そこで“教える”みたいな感じで入ると、知らないことが前提みたいになるので受け入れられにくい。だから、タイミングとか機会をうかがっているところはありますね。エスパルスには良い素材が集まってるのは間違いないですし、彼らをよりフレッシュな状態にしていくこともできると思うんですよね。人の細胞が生まれ変わるのと同じように30歳を越えても技術は伸びますし、Jリーグで10年やってきた選手にも知らないことはたくさんあると思うし、ベテランになってもサッカーに対してはいろんなものを学んでいくという姿勢でいてほしいなと思います」
――そう考えると、かなり時間のかかる仕事だなという感覚がありますか?……