アジア大会準優勝のU-22代表は誤解されている。「ベストではない」選考事情が証明した日本サッカーの強化策
パリ五輪世代でもあるU-22年代のベストメンバーではなく、大学生を中心に招集しながら前回大会に続いてアジア大会の銀メダルを獲得した日本代表。その選手層の厚さを支える日本サッカーの強化策を、開催地・中国で取材した川端暁彦氏が現地で投げかけられたある疑問を出発点に探っていく。
「中国と日本、どうしてこんなに実力差が生まれてるんだ?」
試合会場でこんな質問をぶつけられたのは10日ほど前のこと。中国浙江省の省都・杭州にある黄龍スポーツセンタースタジアムにおいて行われていたアジア大会でのことだった。
翻訳アプリを使っての取材を依頼してきた中国人記者にしてみると、女子が準決勝で日本に負けた直後ということもあってのテーマ設定であったらしい。「いやいや中国の女子代表強かったし、僕らは運が良かっただけですよ」とリップサービスでかわそうとしたのだが許してもらえず、「日本の方がチームのために献身的に戦う姿勢があったからですかね」と答えてはみた。
「いや本当か?」
別に間違ったことを言っているわけではないが、本質的でない気もしてきた。くだんの記者は「W杯で男子も躍進していた。下の年代の代表チームから何か特別な強化策をしているはずだ」との意見で、このアジア大会に参加していたU-22日本代表も何らかの方法で強化を施されているはずだということだった。
誤解である。
可能な範囲で伝えてみようと思った。
「いや、このチームは大会の5日前に初めて集まったんですよ。急造チームなんです。半分くらいの選手が『はじめまして』か、それに近い選手でした。ナショナルチームの一員として国際大会に出るのが初めてという選手が過半数です。ベストチームは、9月のU23アジアカップ予選に出ていたので、杭州には来ていません」
相手の記者が「誤訳かな?」みたいな表情になってしまった。確かにウソくさいが、これは紛れもない事実なのだ。そんなスタートだった大岩ジャパンは、「日本代表にふさわしいチーム」(大岩剛監督)になり、最後はファイナリストとなっていた。
アジア大会の歴史。eスポーツも正式競技に
アジア版オリンピックとして知られる「アジア大会(Asian Games)」。第二次世界大戦後、アジアのスポーツ振興と友好親善を図るため、インドの提唱で始まった。1951年のニューデリー大会を元祖に、原則として4年に1度、夏季五輪の中間年に開催を続けている。
今回、杭州で行われた第19回大会も、本来は2022年の開催予定だった。ところがコロナ禍の影響で順延され、1年遅れの開催となっている。
杭州は日本で「こうしゅう」の音から食の都として知られる「広州」と混同されがちだが、別の都市である。上海の南方に位置し、7世紀くらいから高名な大運河の南端に位置する街として栄え、現在も中国を代表する大都市の1つだ。世界的なテクノロジー企業、アリババグループの本拠地があることでも知られる。アリババの提供する決済アプリ「支付宝(Alipay)」は今大会のスポンサーでもあった。
アジア大会の実施競技は基本的に五輪を踏襲しているのだが、アジアならではのものも多い。カバディ、セパタクロー、太極拳、軟式テニス、クリケットなどである。また囲碁のような「ゲーム」にも門戸を開いており、今大会からはeスポーツが正式競技に採用された(前回は公開競技)。『League of Legends』、『PUBG』、『ストリートファイター5』の3種目(種目である)が行われている。
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Profile
川端 暁彦
1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣『エル・ゴラッソ』を始め各種媒体にライターとして寄稿する他、フリーの編集者としての活動も行っている。著書に『Jの新人』(東邦出版)。