7月26日、水戸ホーリーホックが大津高校の大型ストライカー、碇明日麻の来季加入内定を発表した。前田大然、伊藤涼太郎、小川航基などの期限付き移籍の選手を次々とステップアップさせ、「育成の水戸」としてのブランドイメージを確立したクラブが高卒選手を獲る意味とは何なのか? 西村卓朗GMへの取材を交えて、クラブの狙いに迫る。
9月28日現在、高円宮杯JFA U-18 サッカープレミアリーグ2023 WESTにおいて、15試合で15得点を挙げ、得点ランクトップを走っている大津高校の碇明日麻。187cmの長身を生かした空中戦の強さに加え、柔らかな技術を駆使して圧巻のパフォーマンスを見せている。ただ、彼の凄みは得点力だけではない。高校1年からレギュラーとしてプレーしてきた碇は1年生ではボランチ、高校2年はCBとしてプレーしており、すべてのポジションで高い能力を発揮してきた。いわゆる“三刀流”選手として脚光を浴びてきたのだ。稀有な才能を見せてきた碇には、Jリーグクラブのスカウト陣からの熱視線が集まっていた。
なぜ碇は、J2中位の水戸を選んだのか?
その碇が選んだのは水戸ホーリーホックだった。J1クラブにも練習参加するなど、様々な選択肢があった中でなぜJ2で中位の水戸を選んだのか。碇はこう話す。
「水戸はクラブとして若手を育てることに力を入れていますし、ピッチの中だけでなく、栄養講習を開くなど、体づくりの部分にも積極的に取り組んでいるので、1年目で加入するチームとして水戸ホーリーホックが一番いいと思ったので決めました」
今年2月に練習参加した際、まだ高校2年生だった碇を“お客さん扱い”することなく、コーチ陣やチームメイトから様々な要求をされたことに感銘を受けたことも決め手の1つとなったという。
「水戸では練習の中で高校生の自分にも要求してくれました。本気でぶつかってもらうことが自分の成長につながるので、嬉しかった。自分として水戸ならば、課題と向き合って成長できると思いました」
前田大然、伊藤涼太郎、小川航基。いずれも所属チームで出場機会に恵まれず、水戸に移籍して、才能を開花させた。そして今では海外に活躍の場を移している。
パリ五輪を目指すU-22日本代表のエースストライカーとして活躍を見せる藤尾翔太も水戸で飛躍を遂げた選手だ。21年シーズン途中にC大阪から水戸に期限付きで移籍して、22試合8得点という結果を残して自信を掴んだ。
そうした実績を積み重ねたことによって、「水戸に若手選手を預ければ成長させてくれる」というJクラブ強化部やエージェントからの信頼につながっているようだ。
「育成の水戸」が日本サッカーに貢献するという使命感
水戸は19年以降、J2で最も多くJ1に輩出したクラブであり、育てた若手選手を次々と上のカテゴリーに送り出して、「育成の水戸」というブランディングを確立してきた。
ただ、水戸から羽ばたいていった選手の多くは他クラブから期限付きで加入した選手か、大卒の選手で、自前で獲得した高卒選手を育てて、J1に送り出すことはできていなかった。そうした中で変化が見られたのは、21年。元U-17日本代表DFの山田奈央を浦和ユースから獲得すると、22年にはU-19日本代表DF松田隼風を、23年にはU-19日本代表GK春名竜聖といった年代別の日本代表経験を持つ高卒選手を獲得してきたのだ。……