リーグ6連勝と勢いに乗るジェフ千葉がJ1昇格プレーオフ圏内の5位にまで浮上してきた。なぜ急激に調子を上げてきたのか、15シーズンぶりのJ1昇格の可能性を含め、クラブを追い続ける西部謙司氏に解説してもらおう。
1万3000人を超える観衆を集めたベガルタ仙台戦(第36節)で6連勝を記録、ホームはこれで7連勝。試合後の会見で小林慶行監督は、「自分たちのサッカーとして、いいゲームができた」と話していた。
小林監督の言う「自分たちのサッカー」は、キャンプの段階からすでにあった。ただ、それはまだ監督や選手の頭の中だけにあるものだった。こういうプレーをしたいというイメージは、言語化しなければなかなか周囲には伝わらないが、言語化した時点ですでにイメージしたものからずれてしまうのが常である。言語を介して伝達されたものを形にして、「自分たちのサッカー」は実現される。そこで初めて選手もファンも、もしかしたら監督も、「これが自分たちのサッカーだ」と実感するのだと思う。
小林監督が言う「自分たちのサッカー」は「形」ではなく「概念」
千葉は今、「自分たちのサッカー」を持つに至った。ところが、小林監督は「やりたいことがまだまだある」と言う。その一方で、こう話すのだ。
「今のチームの状況、これまで進んできた道のりを考えると、これ以上『何を』というのはなくて……」
やりたいことはできている。けれども、そうするとさらに先が見えてくる。これがサッカーの奥深いところなのだが、小林監督が「形」ではなく「概念」でサッカーを捉えているということではないかと思う。
例えば、相手がGKからビルドアップを開始するなら人をしっかり捕まえて前から奪いに行くのが良いよね、という考え。それは「自分たちのサッカー」を形作る考えだ。同時にそれだけだとまだ形はない。同じように、自分たちのボールは偶然に頼らずに意思を乗せて運んでいきたいよね、というのも概念であって形ではない。つまり、「自分たちのサッカー」は概念が先にあって形は後からついてくるのだが、小林監督のコンセプトはある意味非の打ちどころのないもので、「それはそうだよね」あるいは「それができれば苦労はないよね」とも言えるものではないかと推察している。
現状でやれそうなことはできている、つまりコンセプトは表現できている。しかし一方で、まだ表現されていない概念もある。ただし、それを表現するための条件がまだ揃っていない。なので、現時点で小林監督が求めているのは「強度と質」。戦術的にこれ以上の何かを求めるのではなく、すでに表現できているものを強化することで、まだ表現されていない領域へ入れるかもしれない――絶好調と言われる千葉の現在位置である。
ビルドアップとセットになっているカウンターの仕組み
小難しい話から入ってしまったが、我々にできるのは表現された形を追うことだけなので、千葉が表現している「自分たちのサッカー」の形を見ていこう。
特徴となっているのは守備ではハイプレス、攻撃はカウンターアタックだ。……
Profile
西部 謙司
1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。