かつてはプロポーカープレーヤーとして世界を転戦し、スポーツベッティングと不動産業で財を成したトニー・ブルームが親子代々サポーターの地元クラブを買収したのは2009年のこと。それから14年、ブライトンはクラブ史上初の欧州参戦を実現し、同オーナーが2018年からベルギーの首都ブリュッセルに所有するユニオン・サン・ジロワーズとともにELの舞台に立っている。クロスオーナーシップによって2024年9月まで両クラブ間の移籍が禁じられてしまったが、三笘薫のブレイクももたらしたその協力関係が注目される一方、「まったく別の目標に向かう2つの組織」だという彼らの野望とは?
※『フットボリスタ第98号』より掲載。
英国屈指のギャンブラーとしてその名を轟かせたトニー・ブルームは、サッカー界でもデータを活用した革命的なアプローチによってブライトン・アンド・ホーブ・アルビオンを「プレミアリーグで最も注目されるクラブ」に変えてしまった。
川崎フロンターレから2021年夏に加入した三笘薫の獲得も、プレミアの他クラブではおそらく難しい選択だったことだろう。ドリブルのスタッツでは確かにJリーグ屈指のタレントだったが、大卒のアタッカーは決して若くなかったからだ。移籍時の年齢は24歳で、しかも英国の労働許可証の取得条件を満たしていなかった。そこでブライトンは、獲得と同時にベルギーリーグへのレンタルを決める。三笘の未来を予知していたかのような彼らは、その1年後、プレミア屈指のドリブラーをチームに加えることになった。
データに支えられた「クラブ選定」
そんな三笘の成長において欠かせなかったクラブが、ブルームが2018年に手中に収めたロイヤル・ユニオン・サン・ジロワーズだ。そして、その会長を任されたのがアレックス・ムジオ。ブルームの経営するベッティング業界のコンサルタント集団「Starlizard」で、アナリストとしてキャリアを重ねてきた男だった。ブルームはこのサッカー選手でもスカウトでもなかったイングランド人に白羽の矢を立て、まだ32歳だった彼とともに2016年、念願だった「海外の我がクラブ」を探すことになる。
彼らはクラブの選定にも当然、データを活用した。中でも興味深いのは、サポーターの性質についても詳細に調べていったことだ。スタジアムで相手サポーターとトラブルを起こしたり、新しいオーナーに反発したことがあるクラブなどは選択肢から除外。実際にオランダのあるクラブは多くの指標において魅力的だったが、サポーターが暴力沙汰を起こした過去があることから買収案が頓挫したという。そうしたプロセスを経て候補に浮上してきたのがユニオンSGだ。ムジオは次のようにコメントしている。
「彼らはすでに外国人オーナーによって保有されていた。そして、サポーターはそれを問題なく受け入れていた。そこが我われにとっては大きかった。ローカルのクラブを買う場合、ファンが反発する恐れがあるからだ。そういった問題がないことは、我われの買収にとってポジティブだった」……
Profile
結城 康平
1990年生まれ、宮崎県出身。ライターとして複数の媒体に記事を寄稿しつつ、サッカー観戦を面白くするためのアイディアを練りながら日々を過ごしている。好きなバンドは、エジンバラ出身のBlue Rose Code。