昨シーズン後半からシメオネのアトレティコ・マドリーが新しい姿を見せている。代名詞だった堅守を維持しつつ、ボール保持のクオリティが大幅に向上し爆発力まで併せ持つようになったのだ。「ゲームプランの幅」が求められるようになった近年のCLの傾向に最もマッチするのは、実は彼らなのかもしれない。
全局面に穴がない優位性
CLが開幕した。まだ始まったばかりだが優勝候補を挙げるなら……連覇を狙うマンチェスター・シティ、新加入ジュード・ベリンガムを中心に新世代台頭のレアル・マドリー、ジョアン・フェリックスでラストピースが埋まった感のあるバルセロナ、あるいはハリー・ケインを獲得したバイエルン・ミュンヘン、キリアン・ムバッペのパリ・サンジェルマンといったところだろうか。
しかし、戦術的な優勝候補を挙げるならアトレティコ・マドリーではないかと思っている。
ラ・リーガ第3節は衝撃的だった。ラージョのホームに乗り込んでの7-0。すべての局面で圧倒していた。ラージョのハイプレスを素早いパスワークで外し、鋭いカウンターアタックで次々に加点。[5-3-2]システムでのミドルゾーンでのブロック守備の強さ、さらに引き込んでのローブロックも磐石。時おり見せるハイプレスも威力があった。
攻守の局面を分解してみる。攻撃ではカウンターとポゼッション。アトレティコのカウンターはもともと定評があるが、昨季後半からはポゼッションからの崩しも素晴らしく、ライバルのレアル、バルサに引けを取らないクオリティを示していた。守備ではハイプレス、ミドルプレス、ローブロックのいずれも機能性、強度とも十分。つまり、どういう試合展開になっても穴がない。これがアトレティコの強みであり、机上では優勝候補筆頭に挙げられる理由である。
例えば、優勝候補筆頭と目されているマンチェスター・シティはミドルゾーンでのブロック守備に強みがない。圧倒的なポゼッションとハイプレスの循環で試合を完結させようとしているからだが、それは現実的に難しくなっている。CLもベスト8以降の終盤になれば強豪同士の対戦が続く。その時にシティのハイプレスはどこまで効果があるのか。そこが疑問なのだ。……
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Profile
西部 謙司
1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。