ウスマン・デンベレが抜けた右ウイングの座を射止めたのは、新たな天才ドリブラーだった。15歳290日でクラブ史上最年少公式戦デビューを飾ったバルセロナで、本格的にトップチームへと昇格した今季さっそく輝きを放ち、初招集されたスペイン代表で史上最年少出場&得点を果たしたばかりの16歳、ラミン・ヤマルの心技と今後をスペイン在住の木村浩嗣氏と考える。
ラミン・ヤマルとスペイン代表について書く前に、16歳の選手が騒がれていることについて自分の立ち位置を明らかにしておきたい。ヤマルにとって2試合目となるキプロス戦の前日記者会見で、ルイス・デ・ラ・フエンテ監督に質問した。
――かつて16、17歳でシーズンをフル出場した後、EUROと五輪でもフル出場した後ケガをし、今日ここにいない選手がいます。来年はEUROも五輪もあり、ヤマルも同じ境遇にいることについてどう思いますか?
「常に選手の健康が最優先だ。とはいえ、サッカーはリスクを負うべきスポーツだ。ケガはサッカーの最も醜い部分だが、それとも生きていかなくてはならない。我われはヤマルの成熟と選手として人としての成長を助けたい。彼は大変若いし忍耐力を持って接していく。代表に来るべき時もあるしそうでない時もあるだろう。だが、常に本人のために良かれと思うことをやっていくし、それが彼と代表のためであることにまったく疑いはない」
今日ここにいない選手とはペドリのことだ。ルイス・エンリケ前監督を意識した質問だったが、現監督も当時、五輪監督で酷使した側だった。
我われメディアは新しいもの好きで、若いスター誕生を囃し立てる。監督は活躍すればついつい年齢を忘れて使い過ぎてしまう。だが、どんな凄い選手でも体も心もまだ子供だ。大人が守ってあげるべきで、時にはブレーキをかけることも必要だ。
ヤマルがクラブで4試合出ただけでフル代表に招集されたのは、モロッコ代表入りを恐れたからだろう。今回ジョージア戦とキプロス戦に出場したことで、残り1試合に出れば彼はスペインのものとなるので、後はU-19やU-21で段階を踏んでじっくり育ててほしい。十代で天才と大騒ぎされた挙句に大成しなかった選手は少なくない。今回の2試合で才能の素晴らしさは証明されたので、余計にそう願っている。
正確なシュートに表れる16歳らしからぬメンタル
ここから本論。
ヤマルは最も若くしてスペイン代表デビューした選手となり、史上最年少得点者となった。
彼のどこが凄いのか? まずはメンタルだ。16歳なのに臆することも力むこともない。が、ビビらないといってもガビのような気の強さを感じさせるわけでもない。性格が強い選手は往々にして力むのだが、ヤマルはドリブルにしてもシュートにしても飄々としてやっている。我武者羅という感じはまったくしない。喜ぶことは喜ぶが、悔しがっている様子はあまり見ない。
メンタルは大いにプレーに影響する。ヤマルのシュートはもの凄く正確だ。ジョージア戦のゴールは3人のDFの隙間をすり抜けて決めたもの。キプロス戦ではコーナーキックから直接ゴールを狙って枠に当て、こぼれ球を拾って打ったシュートはポストに当てた。
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Profile
木村 浩嗣
編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。